【完結】終わった恋にフラグはたちません!
◇ ◇ ◇
不覚にも澪先生の言葉で一瞬、昔にトリップしてしまった。
先生が一体何を考えているのか全然わからない。私を担当にしたり昔のこと引っ張り出したり……もしかして私、からかわれてる?
ガチャッ。
「じゃあ、伊織はここの部屋を使って。一応ベッドはアシスタントが使ってたものが置いてあるから。食器もキッチンも好きに使って……あ、ただ浴室やトイレを使うときは念のため鍵かけてね。うち、アシスタントもよく泊まったりするから──って、何でさっきから怖い顔してるの、伊織?」
澪先生に言われるまで気付かなかったが、どうやら私の気持ちが顔に出てしまっていたらしい。私は慌てて仮の笑顔を作ろうとした。
「いえ、すみません、お気になさらず。……それより静かですけど石川君達は?」
「あぁ、もう原稿は上がったから石ちゃんとりっちゃんは空いてる部屋でもう寝ちゃってるよ、最近徹夜続きだったから。ふたばちゃんは女の子だから途中帰したけどね」
「え! 原稿、もう上がってるんですか? なら、担当の私に一言連絡くれませんか。担当が何も知らないなんて間抜け過ぎるので……」
少し膨れ気味の私を見た先生は、驚きの表情と共に優しい笑顔を向けてきた。そして細くて大きい手が……私の頭をポンポンと包み込んでくる。
さっきからこの人は──知っていて甘い態度をとってくるの? ……そんなことをされたら、強い態度も取れなくなってしまう。
「そういうところ、伊織は八年前と変わってないから安心した。気が強いところも優しいところも責任感強いところも……。でもまさか出版社に転職してるとは思わなかったよ」
「……あ─、やっぱり気付いてたんですね、私の性格。さっき私の雑なところ変わってないって言ってたし、もしかしたらって。……あの、変なこと聞くんですが……澪先生は、その、いつから、知ってたんですか? 結婚する前、それともその後? 私の性格が……嫌に、なったから離婚したんですか?」
問い詰めるような可愛げのない聞き方。
今更そんなこと聞いたって何かが変わるわけないのに。
……でも、もしかしたら結婚後この性格が原因で離婚したのではないかと、少し気になってしまったから。
澪先生は可愛げのない私に向かって少し無言になる。そしてその沈黙のなか、先生の顔をチラッと見ると何だか渋い……怖い顔。
ま、まずい……なんか怒らせてしまった?! 今更、そんなこと聞くなよってことか?
その渋る顔は目を細めて更に渋くなり、私をジーと見つめ手を伸ばしてくる。私は一瞬体を強張らせ身を構えてしまった。