【完結】終わった恋にフラグはたちません!
担当になった以上、昔のことと仕事のことはちゃんと線引きしようと思っていたのに私は何で今更なこと聞いちゃったんだろう。……謝ろう、ここは先に謝ってしまおう!
「み、澪先生すみません、変なこと聞いてしまって。もう忘れてぇ─…くらふぁい……せ、せぇんふぇい?!」
ま、またデジャブ感!
伸びた先生の手は、そのまま私の頬をムギュッと強く押さえる。口をすぼめた私は今まさに間抜けなたこ状態だ。
「もう─、やっぱりずっと敬語に “澪先生” だ! 二人の時は敬語禁止。じゃないと原稿渡せないかな─。ほら、昔みたいにゆうちゃんって呼んでみ」
「……ふぃ、ふぃおしぇん──」
「“ゆうちゃん”」
もう、名前なんてどうでもいいでしょうよ─!?
「……ゆ、ゆう、しゃん」
「はい、良くできました」
ん──? もしかしてまた、話をはぐらかされた?
やっと頬から手を離してくれたゆうちゃんは意地悪そうにニッコリ笑ってリビングの方へ向かう。自分の頬が急激に血が通ってジンジンしていくのがわかる。私は頬を擦りながらゆうちゃんの後を追った。
◇ ◇ ◇
思えば、再会してからゆうちゃんと二人っきりで話すのは初めてだ。
「今、紅茶入れるからそこ座ってて」
「あ、いえ! 澪先……ゆ、ゆうちゃんも疲れているのに悪いよ、私が入れる。ゆうちゃんは確かコーヒーが好きだった……よ、ね」
あぁ─、うっかりゆうちゃんの好みを口に出してしまった……これじゃあ、さっきのゆうちゃんと同じだ。今だにゆうちゃんに未練があるって思われ──……ん、未練?
「まだ、物がどこにあるかわからないでしょ、今日は伊織が座ってて」
「……あ、うん、ごめん」
横目でゆうちゃんを見つめながら私はゆっくりリビングのソファーへと腰掛ける。
確かにキッチンスペースには入ったものの、まだどこに何があるのかわからない。
なのに……もうだいぶ時間が経つはずなのに体が昔の記憶を覚えていた。八年前のルーティーンをついしてしまった自分が嫌になる。
「──さっきの、話し」
「え?」
変な衝動に刈られ呆然としていた私に、ゆうちゃんは淹れたての紅茶を手渡しながら向かいのソファーに座る。そして静かに口を開いたのだ。
「さっき、伊織の本当の性格を知っていたかって話し」
──『澪先生はいつから、知ってたの? 結婚する前、それともその後? 私の性格が、嫌に、なった?』──
「あぁさっきの……ごめん、可愛げのないこと聞いた。今更そんなこと聞いたって仕方ないのにね。あ─、ほ、ほら大丈夫! 私はもう恋愛より仕事に生きようって決めてるから、さっきのことは気にしないで!」
あ─、ヤバい……そんなつもり全くないのに強がりを言って自分で悲しくなるパターンだ、これ。