【完結】終わった恋にフラグはたちません!
「そうじゃなくて……僕は知ってたよ。伊織の性格は結婚するずっと前から。……だから伊織と別れたのは性格とか関係ないから」
え……そ、そんな前から私の本性バレてたの? これでも結構頑張って女の子らしくしていたつもりなのに。──料理上手アピールとかモテ服コーデを着たりとか言葉使いに気をつけたりとか、漫画やアニメ関係は段ボールに閉まったりとか……全部、私の取り越し苦労?
昔の慣れないことに頑張っていた自分を思い出しては脱力感が襲ってくる。
あ、でもそれじゃ……
「じゃあ、もしかして石川君達が言っていた、その……ゆうちゃんのバ、バイ──」
「バイセクシャル?」
「そ、そうそれ……が関係してたり、する?」
ゆうちゃんは少し伏し目がちに残っていた紅茶を飲み干す。そして急に立ち上がったかと思えば私のすぐ横に座ってきたのだ。
な、なに? 何で急に隣になんて……
そして、ゆうちゃんのイケボイスが静かにゆっくりと私の耳奥を犯し始める。
「……今は、2対8の割合かな」
ゾクゾクゾクゾクッ──
ゆうちゃんの吐息とイケボイスは私の鳥肌と最高の胸の高鳴りを引き出してしまった。
「は、はぁ、な、な、何が?! っていうか何で隣で耳うちするかな─!」
「だって─、りっちゃん達もまだいるし、プライベートなこと聞かれたくないじゃない」
いや、もうバイセクシャルって皆が知ってるだけで充分プライベートなことなのでは?
「わ、割合ってなに!?」
「……割合っていうのは女性が2、男性が8──今僕が好きになる性の確率ってことだよ。僕の好きになる確率って結構その時によって変わるんだ。
……でも本当はね、出来れば僕も女性だけをちゃんと好きになりたいんだ。けど、ついつい男性にも気を取られちゃってね─」
あ─、うん。何となく覚悟は決めていたものの、やっぱりゆうちゃんの口から直接聞くのは堪えるな─……
「──でね、そこで伊織に相談なんだけど」
「な、なに……?」
なんか嫌な予感がする。
「伊織の今あるテクニックで、この確率を10:0に、女性だけを好きになる体にしてくれない?」
は、はぁ? 体? テ、テクニックッ──!?
や、やばい、何言っているかわからないけど、これめっちゃ妄想案件過ぎる!
「ゆ、ゆうちゃん?……な、何を急に──そんな簡単に10:0にできるわけないじゃない……それにお古の私じゃ今更──」
「じゃないと、たぶんバレちゃうかもね─……」
「ば、バレるって何が?」
「あれ、まだまきちゃんから聞いてない? 今度、ドラマ化にあたって主演イケメン俳優との対談があってね─。この俳優がまた僕がずっと好きだった人で、もし生で逢ったりしたら……たぶん僕、なにするかわからない」
そ、そこは理性で何とかしましょうよ!
「もし僕が “バイ” ってバレたら……この先どうなっちゃうのかな─、何かあったら担当の伊織のせいになっちゃうのかな─」
そ、そんなことはあるわ、け……
で、でも、もしゆうちゃんがそのイケメン俳優に抱きついたり、キ、キスなんて迫ったりしたら……
“バイ” とバレる→周りの目が変わる(人もいる?)→週刊誌に取り上げられる→もしかしたらドラマ化白紙→コミックの売上下がる→担当の私の責任問われる→窓際族決定?
うわぁぁっ──! お、恐ろし過ぎる! 妄想力がめちゃくちゃ働くだけに生々しい! 窓際族はいや──
「わ、わかったっ!! ゆうちゃん任せて! ゆうちゃんが望むなら私のテクニックで女性だけを好きなる体にしてあげるからっ!」
この時の私は自分の女子力の無さや正常な思考はどこかへ飛んでしまっていたのかもしれない。──後でものすごく後悔するとも知らずに。
ゆうちゃんはそんな私を見てニッコリと微笑む……何かを企むような含みのある笑顔で──。