【完結】終わった恋にフラグはたちません!
第六話 ★ とっくの昔に(祐一side)
「澪先生。いつまで “ツブヤイター” 見てニヤついてるんです」
「……えっ! 僕、ニヤついてた?」
「ええ。どこの盛りたった中学生かと思いましたよ。──そんなに想ってる人だったら逢いに行けばいいじゃないですか」
長く僕の編集担当をしているまきちゃんは、ちょいちょい辛辣な言葉を挟んでくる。顔はイケメンなのにあまり笑った顔を見たことがない。でもイケメンっていうだけで僕の創作意欲が掻き立てられるのも事実。……そんなまきちゃんもあと一週間で僕の担当を外れ、違う部署へ移ってしまうのだ。
そして、ごもっともなまきちゃんの問いかけに僕は重い溜め息を漏らしてしまう。
「それはそうなんだけど……正直、今どこに住んでいるかも、どこで働いているのかもわかんないんだもん。職場も携帯番号もメアドも変わっちゃってるし」
「じゃあ、ツブヤイターで連絡とってみればいいんじゃないですか? 簡単なことですよ」
「で、でも、それでブロックでもされたら俺……立ち直れないかも」
「バイの人が本当に中学生なこと言ってますね」
「いや、まきちゃん、バイは関係ないから」
「でも、あれ? 確かその想い人のお兄さんと友達って言ってませんでした? そこから聞いてみたらいいのでは」
「あぁ司は……もう何年も連絡取れてなくて。七年前、急に冒険家になるって言って世界中あちこち飛び回っちゃててね」
「友達さん、どこかで野垂れ死んでなきゃいいですね」
「ちょ、まきちゃん言い方!」
今日のまきちゃんはいつもより機嫌が悪い。まぁ、その理由が僕であるということはわかってるんだけどね。
でも、もしかしたら今日彼女が来るのではないかと、締め切り前なのに無理を言ってこのイベントに参加させてもらったのだ。
「本当、何で僕までこんなうさ耳にオタク丸出しのTシャツを着なきゃいけないんです、先生? 僕、今年で三十ですよ」
「ハハハ……」
それを言ったら僕は三十二になったばかりなんだけどね。
まきちゃんの機嫌の悪さを得意の笑顔で受け流すしかなかった。
今日はコミケ最大のイベントがある日。
僕のアシスタントの一人がアマの漫画家 “連” として同人誌などを販売するということで、その手伝いにきたというわけだ。
でもそれは建て前──
彼女のツブヤイターに今日ここへ行くことが書かれていたのを見たのだ。偶然にも僕のアシスタント連先生のファンだとも。
これは、もう一度彼女と出逢うチャンスが巡ってきたのかもしれない、と勝手に思ってもみた。
けれどそれは全くの僕のエゴ。
彼女にとったら、今になってなんて調子のいい話なのだと思うだろう。