【完結】終わった恋にフラグはたちません!

「ジ、エンドですね、先生」
「まきちゃん言い方ぁ──」

負ったばかりの傷口にたっぷり塩を塗りたくるようなこと言わないでくれよぉ──……

「──あれ? でももしかして今の……確か会社の子に似ていたような」

すぐ隣にいるまきちゃんは逃げ去っていく伊織を見つめ、一筋の光のような言葉を僕に投げかけた。

「えっ! まきちゃんそれ本当? 彼女、立木 伊織って言うんだけど高藤出版に勤めてるの!?」
「あ─……確かそんな名前だったかな? 部署は違うんですけど前に新人研修の講師をした時にいたような気がします」
「うわぁ! マジか? こんな身近に彼女との縁があったんだね!」
「──でも彼女。さっきの態度だと先生に逢うの嫌がってましたよね、()()()()()

うっ……だ、だから、何でそんな天から地に落とすようなこと、を……

その時──悪魔の囁く声が聞こえてきたのである。

失意のどん底にいてもなかなか諦めきれなかった僕の頭の中に、ある考えがポッと浮かんできたのだ。

今まで流されるまま仕事をこなし、わがままなんて言ったことのない、締め切りをちゃんと守る良き漫画家だったと思う。それに自分で言うのも恥ずかしいが、今の僕は多大な貢献を高藤出版にもたらしているのではないか、それにこれからドラマ化だって控えている。

──だからたった一回ぐらいの無茶すぎるわがままでも、編集長は自分の願いを通してくれるのではないか。

僕はこの先の、可能性があるかどうかもわからない不確かな未来を、やっと繋がった細い糸に賭けることにしたのだ。
そして、それを実行に移す前に決心という深くて長い溜め息を一つ吐きだす。

ハァ─、自分から手放したくせに……身勝手だよね。

「──まきちゃん」
「なんです、先生」
「今すぐ編集長に連絡取ってくれない? 至急、頼みたいことがあるんだ」
「頼みたいこと?」

一回失ったものはそう簡単には戻らない。それは十分わかっているつもりだ。
だからこそこれは、もう一度彼女を手に入れられるかどうかの賭けなのだ。


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