【完結】終わった恋にフラグはたちません!
周りの痛い視線に気付いた私は、“またやってしまった……”と頭を下げ後悔の気持ちでいっぱいになった。
普段は口に出さないよう細心の注意を払いながら妄想の世界に浸っていたのに。
けれど自分の脳内だけで想像し楽しむはずが、どうも週末になると気が緩んでしまう。
それに明日は趣味にどっぷり浸かれる大切なイベントの日!
後悔と恥ずかしさそれに明日へのワクワク感を胸に秘めながら、ひたすら床だけを見つめ耐え続けた私の耳に天の声が舞い降りてきた。
【次は大文字─、大文字駅。降り口は右側になります】
やっと降りられるぅ……
そのアナウンスが流れ尽いたところで、ようやく安堵感たっぷりの溜め息を漏らし始める。そして、電車の扉が開いたのと同時に私は駆け足で大文字駅へと降り立ったのだ。
「なぁ、あの女でかくねぇ?」
「あぁ、頭一つ出てたな」
電車の人混みをすり抜ける最中、いつもの戯れ言が私の耳に流れ込んできた。一瞬その声の先を見ると、そこには大学生らしき男性二人がクスクスと笑いながら面白いネタでも見つけたかのように私を指差している。
いつものことだ。
もういい加減、三十年近く生きていればそんな戯れ言にも慣れてくる。こういう時は、大人の余裕でニッコリ微笑み返してやろうか──
降りる乗客がいなくなると、満員電車はけたたましいベルの音と共に電車の扉が閉まり次の駅へと発進していく──と、同時に私は大人の対応をする為、電車の方を振り返った。
大人の余裕、大人の余裕……
私は口から思いっきり息を吸い込んだ。
「──背ぇがでかくて何が悪い! 見下ろされたくなかったら君達がでかくなりなさいよ!」
あと一週間で三十路になる私だったが、大人の対応を取ることはできなかったようだ。
まぁ、こんなに鼻息を荒くしながら一言申しても、既に走り去っていく電車の中の人間には聞こえないんだけどもね。