【完結】終わった恋にフラグはたちません!
元々少なかった食器を洗い終え、石川君はキッチンの対面にある大きな窓の先をジッと見つめ静かに語り始める。
「……俺、実はアマで漫画を描いていて、いつかは先生みたいにビッグな漫画家になるって目標掲げてはいるんすけど……」
「え─! 石川君、漫画描いてるの? すごいじゃない。どんな漫画を描いてるの? 少女漫画? 少年漫画? 出版社には見せたことある?」
あ──……いけない、ついつい職業病が前にでてしまう。漫画を描いているって聞くと、どんな漫画を描いているか気になって仕方なくなっちゃうんだよな─……
「……いや……よく出版社には声かけられるんすけど、ちょっと事情があってまだ同人誌やネットであげてるだけなんです」
事情? 澪先生みたいな漫画家を目指していて出版社からも声をかけられてるのに……プロの漫画家にはまだなってない?── 一体どんな事情が……
「ちなみに石川君。同人誌ではどんなストーリーを描いてるの?」
「あ─、俺のは少女漫画ではあるんすけどファンタジー系のストーリーで、ウサギに変身させられた主人公がある魔法使いと一緒に呪いを解く旅をする──って話で、まだまだ澪先生には到底追い付けない作品で……って、え? た、立木さんっ!?」
思わず私は石川君の両手を握ってしまっていた。石川君の話したストーリーを聞いて一気にテンションが上がってしまったのだ。だってまさか石川君があの──
「れ、連先生!?」
「え、あ、うん。そうっすけど?」
「うわぁ─、やっぱりっ! まさか石川君があの連先生だとは! 石川君。石川君は絶対プロになるべきよ。あの漫画はもっとたくさんの読者に届けないと可哀想……」
「かわい、そう?」
「そう。漫画は読んでくれる人がいるから、読者がいるからこそ作品がもっと生きてくると思うの。──そりゃ、同人誌だけでも連先生のファンはいっぱいいるかもしれないんだけど、それでもまだまだ氷山の一角。プロになったらもっと色んな景色を石川君自身が見られるんじゃないかな? ……って、勝手に盛り上がってなに語ってるんだろうね─、これ、ただの持論なんだけどね」
熱弁を振るってしまった手前、急激に恥ずかしくなってきた私は握っていた石川君の手を急いで離す。──冷静になってくると、担当でもないのに余計な口を出してしまったと、後悔の波が一気に押し寄せてきたのだ。
本当、最近何も考えずに行動し過ぎだ、私……石川君もなんか黙っちゃったし、色々と事情があるのに余計なこと言っちゃったかな……
「…………あの、立木さん」
「は、はい!」
しばらく私の方をじっと見つめ黙っていた石川君がやっと口を開いた──と、思っていたら今度は急に顔が真っ赤になって勢いよく私から目線を外す。
え、な、何、どうした? 何で顔が赤く──