【完結】終わった恋にフラグはたちません!
「あの立木さん。……さっきから、その、上からだと胸が少し、見えてしまって、いるっす……」
「はぇっ?!」
その言葉を聞いた瞬間、石川君の赤面が伝染したかのように顔が真っ赤となり、急いで自分の胸元を両腕で覆い隠した。
なにも、露出が多い服を着ているわけでもなんでもない。いたって普通のルームウェア。ただちょっとだけ襟ぐりが広く伸びきっており、何年ものなのかと尋ねたくなるようなTシャツを着ていただけ……一人の生活が長かったからそこまで全く気にも留めていなかった。
私よりも背の高い石川君の位置からだと、見下ろす形で上からチラッと見えてしまっていたのだ。
なんだこれ、うわぁ─……めっちゃ恥っず! !
こんな寝起きに男性が近くにいることなんてずっとなかったから油断してた─、よく見れば(見なくても)Tシャツヨレヨレだし。
「ア、アハハハ─……お、お見苦しいもの見せちゃってごめんね─。こんなんだから誰も女性として見てくれないんだよね─。背は男性並みに高いし女子力もなければもうすぐ三十路だしね!」
あ──、恥ずかしさ隠す為とは言えやっぱり自分で言っておいて嫌に──。
「そんなことないっす!」
顔では笑いながら心はズタボロとなっていたのが一瞬、石川君にバレてしまったのかと思った。突然、私の自虐ネタを力強く否定してくれたのである。
「石川君?」
「立木さんは十分魅力的な女性だと俺は思うっす! 背が高いのもモデルさんみたいでカッコいいし、仕事とか趣味も何かに一生懸命になってる人は無条件にすごいっす! ……あ……って、あ、すみません。何か勝手に生意気なこと言って……」
そんなことはない。
ここ何年、誰からもそんな前向きな言葉をかけられることなんてなかったから素直に嬉しい。──そんなこと言われたのは、人生で二回目だ。
「うん。石川君、ありがとう! 男の人にそんなこと言われたの久しぶりだから、何か朝から元気でた! 今日も一日仕事頑張れそうな気がする」
また違う恥ずかしさを覆い隠すように、私は笑顔で元気アピールをしてみせた。──が、なぜか石川君は瞬きもせずまた無言で私の顔をジ─と見つめてくる。
「石川、君?」
「……立木さん。あ、その、立木さんは笑顔も素──」
「ひゃ、な、何!?」
突然、自分の目の前が真っ暗になると共に叫び声をあげてしまった私は、一瞬何が起こったのかわからなかった。
──え、これ、ぬ、布?
……──少しずつ、今の状況を理解できてきた私は冷静を取り戻す。どうやら、自分の頭に何かが覆い被されているようだ。
すると次の瞬間、私の両肩に一気にかかってきた重心。
な、何?! なんか重たいんだけど……
「伊織。そんな薄い恰好じゃ風邪ひくよ─」