【完結】終わった恋にフラグはたちません!
「離してください!」
「何言ってるの? 俺はただ早く君のお店を紹介してって言ってるだけよぉ─。君のオナベバーってどこにあるのさぁ─……ヒィック!」
「私、違います! ただの女性なんです、それにお店になんか勤めていませんから!」
「またまた─……でも君みたいな綺麗なオナベの子だったらおじさん、一夜の過ちがあってもいいよぉ─…………ヒィック!」
うわぁ─……おっさん気持ち悪いこと言ってるし。
少し遠目でよくわからないが、どうやら酔っぱらいのおっさんに一人の女の子が絡まれている様子。この繁華街では呼び込みの若手ホストもいれば、理性を無くすまで飲んだあんなおっさん、羽目をはずし過ぎる若者達がうじゃうじゃといる。ましてや女の子が一人こんな場所をブラブラしていたら絡まれること必須だ。
──でも、この声……どこかで聞いたことのあるような……
気になった僕は二人の会話を気にしつつも、徐々にその騒がしい場所へと近づいていく。そして、二人の距離から三メートルほど近くまで来た時、僕は自分の目を疑い驚いた。
そこには背の高いスラッとした女性……自分がここ二年ほど、頭の片隅でずっと気になっていた女性──立木 伊織がその場にいたのだ。
え、何で彼女がこんな所に? こんな所、一人で来るような子じゃないでしょ。
久しぶりに見る伊織ちゃんは相変わらず、パンツスタイルに地味目な色の上着を羽織っていた。僕はここ何年か彼女を見ていたがスカートなどの女性らしい恰好を見たことがない。
そんな彼女が今しがた、酔っぱらいのおっさんに右手首を掴まれ必死にそれを振り払おうとしていた。
「──ちょっ、いい加減、離してください!!」
「なぁんだ─!? 客に対してその態度はよぉ─!」
急に激高しだした酔っぱらいのおっさんは、彼女の手腕を掴まないもう片方の手をバッと上げ叩こうとする態勢をとった。彼女も、見て見ぬふりする観客達もアッ!と思ったに違いない。
──だが、一向におっさんの右手は上がったままピクリとも動かない。おっさん自身も一体何が起きたのかわからない様子だ。