【完結】終わった恋にフラグはたちません!
第九話 ☆ 予想外のトラブル
「あれ? なんか雰囲気違うね、立木さん」
仕事場ではいつも地味色のパンツスーツに、アクセントとしてスカーフを巻いたりネックレスなどをつけることが多い私。
でも、今日は珍しく淡いブルーのワンピースに少し高めのヒール靴を履いている。
そりゃ、誰だっていつもと違うなって気づくかもしれないけれど、まさか出社して早々に言われるとは思わなかった。
「あ─、今日はちょっと用事がありまして」
「澪先生と、でしょ?」
「え!?」
なぜ、巻さんが知っている?
「あ、何で知っているかって顔。ん─昨日さ、澪先生から興奮したメッセージがきてね」
「興奮?」
「うん。楽しみ過ぎて興奮し過ぎて結局眠れないパターン。何だか初めてデートする……みたいな?」
「初めてって、ありえませんよ─。私達一度は結婚してたんですから。それに澪先生だったら黙っていても女性のほうから近寄ってきますし。……あ、それよりも私、巻さんに誕生日のこと言いましたっけ?」
最近引き継ぎの為に巻さんと一緒にいる時間が多かったし忙しいのもあったから、自分がどこまでプライベートのことを話していたのか、正直あまり記憶がなかったのだ。
「ん? いやたぶん聞いてないと思うけど」
「ですよね─」
じゃあ、やっぱりゆうちゃんがたまたま覚えていただけなのか?
「立木さん。引き継ぎも今日で終わりだけど、もし何か困ったことでもあったらいつでも聞きに──」
「巻さぁ─ん! 二番にお電話で─す」
「あ、了解─!……立木さん、ちょっと待っててくれる」
「はい」
週明けから文芸部へ異動になる巻さんはこの一週間とても忙しい。五年間この少女漫画編集部に在籍し、その前は少年漫画編集部にいたと巻さんから聞いた。
たぶん文芸部に何年か在籍したら、今度は編集長としてどちらかの漫画編集部へ戻ってくることになる──言わばこのまま何もなければ出世街道まっしぐらの人物なのだ。
「はい、巻です。お疲れ様……え!? いやそれは来週のはずでは……いや、でも今日は私も予定が── あ─はい、じゃあわかりました、今すぐ向かいます」
どうしたんだろう……巻さんの顔が珍しく険しい。なんだか今、巻さんの頭の中で瞬時に色んな事が整理されているような感じ。
「──うん。あれはやっぱ今日中だし……あぁ、まぁそれしかないよな」
巻さんに自覚はないのか所々、自分が今考えていることが口に出てしまっている。
「立木さん!」
「は、はい!?」
頭での整理が終了したのか、急に反応しだす巻さんの呼び声に私も即座に返答する。
「澪先生と約束している所悪いんだけど……一件頼まれ事、引き受けてくれないかな?」