【完結】終わった恋にフラグはたちません!
◇ ◇ ◇
【伊織おはよう─。
今日の夕食なんだけれど、夜景が見られる雰囲気の良いレストランを予約したから……十九時頃、そのレストラン前に待ち合わせでいいかな? レストランの住所はまた後で送るね─🖤】
朝の通勤途中、ゆうちゃんからメッセージが届いた。
男性と二人だけで夕食なんて、はっきり言ってゆうちゃんと別れて以来初めてかもしれない。別にデートっていうわけでもないし、ただ夕食を一緒に食べるだけなのだから緊張なんてするはずがない……──と、軽く思っていたんだけど。
あ─、なんだこれ……待ち合わせ時間が近づいてきたら急激にめちゃくちゃ緊張してきた──
よくよく見ると今日の私の洋服、気合入れ過ぎに思われないかな? 化粧とか派手じゃない? ……う─、最近のファッションは何が正解でダメなのかよくわからん。
会社からゆうちゃんの予約してくれたレストランまでは電車で約三十分。
十七時半に会社を出る私には、途中どこかへ寄ったとしても余裕でレストランまで行けるはず。そう思い、巻さんからの頼み事を快く引き受けたのだ。──が、これが間違いの始まり……
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『立木さん! 澪先生と約束している所悪いんだけど……一件頼まれ事、引き受けてくれないかな?』
『頼まれ事、ですか?』
『今日ってさ色々と会議の多い日じゃない。だから他の人は動けないし立木さんに頼むしかなくて……帰りにある所へ寄ってくれるだけでいいんだ』
『わかりました、全然大丈夫ですよ! 定時に会社を出ても先生との約束まで余裕で時間ありますし。……で、どうしたんですか?』
頭をクシャクシャと崩しながら少し困った顔を見せる巻さんは、自分の私物をまとめた段ボールの中からA四サイズの茶封筒を取り出した。
『これ、ある漫画家さんの為に集めた資料なんだけれど、レストランへ行く途中にその先生の家があってね、これを届けてくれると助かるんだ。本当は今日中に僕が届けるはずだったんだけど、急遽これから大阪に行かなくちゃいけなくなってね』
え─と、なぜ巻さんがレストランの場所を?……と一瞬疑問に思ったがそこはもうスルーすることにした。
『大阪ですか!? また急ですね。……わかりました、これお預かりします。それで、その少女漫画家さんとは?』
その問いかけを聞いた巻さんの顔が一瞬困惑したような表情に見えたが、すぐにいつもの巻さんへと戻っていく。
『いや、少女漫画家じゃないしここの雑誌でもない。少年漫画家の水瀬 青雲先生なんだ』
『青雲先生って、あのアクション漫画を描いている?……え、でもどうして少女漫画編集の巻さんが少年漫画の先生と?』
『まぁ─……色々あってね。とにかくこれ、先生の住所と電話番号。僕はすぐ準備をして出なくちゃいけないから、立木さんあとはよろしくね!』
『はい!お任せください』
とりあえず、必要な物だけ鞄に詰め込み急いで編集部を出ようとした巻さん。しかしその瞬間、体の動きを一旦ストップさせ私の方へと振り返り一言。
『立木さん。渡したらすぐ逃げ……帰るんだよ!』
──と。