【完結】終わった恋にフラグはたちません!
◇ ◇ ◇
水瀬 青雲──
現在、四十四歳。
二十六歳の時に少年漫画誌にてデビュー。その後はなかなかヒット作に恵まれなかったものの、三十歳で描いた連載漫画が飛ぶように売れ、一気に有名漫画家への仲間入りを果たしたのだ。
言わば僕からしたら憧れる大先輩の一人。でも今はそんなの関係ない!
ビンポンピンポンピンポンピンポンッ──!
最寄駅から青雲邸まで全速力で走ってきた僕は、まるで嫌がらせでもしているかのようにチャイムを鳴らし続ける。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ─……」
まだ三十二歳、されど三十二歳……普段あまり体を動かさない仕事の為、時間の空いた時はなるべく走り込んだりジムに行ったりしている。──が、今は精神的にも不安定だからかそんな距離もないのに息がなかなか整わない。
それに、こんなに鳴らしていても中から誰かが出てくる様子もない。
「すみません! 青雲先生、いらっしゃいますか!」
なんで、誰も出てこないんだよ!? ……それに、何だか中から大きな音が聞こえてもくるし……
僕がもう一度チャイムに手を伸ばそうとした、その時だった。
“ガチャリ”
玄関ドアの鍵が開く音が聞こえてきたのだ。そして中からは首にタオルをかけた汗だくの男性が出てくる。
「はいはいはい、誰─! もう、なんで今日はこんなに訪問者が多いんだよ─」
「あ、すみません! 失礼します!」
「え、あ、おいっ!」
玄関ドアが半分開いた瞬間、僕は自分の手でドアを勢いよく開け、勝手に中へと侵入していった。
急に見知らぬ男が家に突入してきたのだ……通報されても仕方のない状況。けれどもその時の僕はそんなことを考える余裕などなかった。
「伊織─! どこだっ!?」
廊下を走り抜けながら、途中、いくつもある部屋のドアを順番に開けていったが伊織はどこにもいなかった。そして奥にある最後の部屋へ続くドアに手をかける。
「伊織!!」