【完結】終わった恋にフラグはたちません!

「──澪先生!? え、なんで、どうしてここに?」
「いおりぃ──……」

ハァ─……良かったぁ─無事で……

ちょうどスマホを手に取り驚く伊織の姿を確認した僕は、体全体の力が一気に抜けていくようだった。

最後のドアの先はリビングらしき部屋になっており、広いアイランドキッチンに大きなソファー、大理石であろうダイニングテーブルなどが配置されている。
そして、その一角にある何もない広いスペースには伊織の他に、三人の男女がビックリした顔で何事かと僕の方をジッと見つめていた。

「ちょっと誰ぇ─。人の家に勝手に入っていいと思ってるの? 不法侵入だよ─」

今の伊織達のこの状況が飲み込めず、呆然としている僕の背後から、文句を吐きゆっくりとこちらに近づいてくる男性。

「君、誰?……伊織ちゃんの()()?」
「えっ! あ、いや、あの、今はまだ、彼氏と言うか……」

予想外の “彼氏”という言葉になぜかすごく照れてしまい、なかなか否定できずにいると直ぐ様伊織から一刀両断の言葉が飛び出してしまった。

「いえ、違います。私が担当している少女漫画家の澪先生です。……今日はたまたま一緒に夕食を食べる約束をしていまして」
「あー、君が今注目されている澪先生!? ……男性だったんだ。まぁ、俺も君の作品好きでよく読んでるよ」
「あ、りがとうございます。え─と……」
「あ、澪先生。この方は少年漫画家の水瀬 青雲先生です」
「あなたが、あの……私、澪こと三栗谷 祐一と言います。先程はすみませんでした! 突き飛ばした上に勝手に入ってしまって。……あ─、実は彼女がその、もしかしたら……」
「俺が襲ってるとでも思った?」
「あ─……はい。あ、いえすみません! 僕の早とちりだったみたいで」
「いや、別にいいよ。よく勘違いされやすいし、変な噂が出回ってるしね─。それよりも俺の方こそ伊織ちゃん引き止めちゃったみたいで悪かったね─」

少しづつ冷静になってきた僕は青雲先生に向け深々とお辞儀をした。そして改めて辺りを見回してみると、伊織達がここで何をしていたのか徐々に状況を理解し始めたのである。

「……すみません澪先生、遅れる連絡もできなくて。ちょうど今休憩が入ったのでこの隙にメッセージを送ろうと思っていたんですが……」
「え─と、今ってもしかして」
「はい……あの、()()、やって、いました……」

確かにヨガマットなるものも敷かれているし、皆運動しやすい格好で汗だくだ。伊織も誰かに借りたのかTシャツに長ズボンといった格好。
まぁ、ヨガをやっていたんだろうなとは思うけど……ヨガ? なんでヨガなの?

「ちょっとちょっと立木さん! 澪先生ってこんなにカッコいいの!? そんな先生の担当なんて羨ましいわ──!
私なんて締め切りが終わった後いっつも先生に付き合ってこのヨガ、強制的にやらされてるんだからぁ!」

伊織と一緒にいた女性の一人が、もううんざりといった雰囲気で青雲先生を睨みながら愚痴ってきた。

「え──、だって大勢でやったほうが楽しいじゃんよ─!」

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