【完結】終わった恋にフラグはたちません!
「あ─、あの澪先生、説明しますとね。──青雲先生は今とてもヨガにハマっているらしいんです。今日は締め切り前に早く原稿が上がったらしく、私が伺った時にはもう既にこの状態で……澪先生との約束があったのですぐ帰ろうとしたのですが」
「いや─、さっき無理な態勢を取って倒れたアシスタントの一人が帰っちゃって。ちょうど伊織ちゃんが来たから誘ってしまってね!」
「──先生、あれは誘ったんじゃなくて強引にやらされたんです」
「伊織ちゃん、はっきり言うね─。……んじゃさ、ヨガはもうこれくらいにして、澪先生もいることだし、締め切りも無事終わったし──酒盛りでも始めようか──!」
青雲先生の変なスイッチが入ってしまったようだ。
まだ初めて逢って間もないが、青雲先生はどうやらかなりの自由人のよう……これだと周りの人達もなかなか苦労しそうだ。
でも……さっきから青雲先生と伊織のやり取りを見ていると、何かムカついてくる。それに青雲先生はもう “伊織ちゃん” なんて呼んでるし。
「いえいえ、青雲先生。僕と彼女はもうこの辺で失礼し……」
「え─何でよ澪先生! 仕事立て込んでるの?」
「い、いえ……」
「お酒、嫌い?」
「い、え……」
「じゃ─酒盛りしてこぉ─よぉ─!」
青雲先生の圧がすごい。この人は自由人の上に寂しがり屋でもあるみたいだ。
青雲先生やその担当、アシスタント達はヨガマットを急いで片付け、キッチンからおつまみやお酒類を既に用意し始めている。僕と伊織は勝手もわからず端っこでボーと立ちながら皆の動きを見ているしかなかった。
そんな皆が酒盛りの準備で忙しい時、突然伊織がこっそりと僕の指を軽く握ってきたのである。
え、い、伊織!? 急にどうした?
伊織はそのまま何かを話しかけようと僕の耳元に自分の口を近付けてきた。
「ゆうちゃん、今日は本当にごめんね。せっかくゆうちゃんがレストラン予約してくれたのに、こんなことになっちゃって……」
いやいやそんなことはもうどうでもいいよ─、伊織!
伊織が僕を気にかけてくれるだけで、僕の心臓は嬉しくて今にでも飛び出してしまいそうだった。もうこのまま倒れてしまうんじゃないかと思うぐらいにドキドキだ──
けど……
わかってる。
伊織が好きでこんなことしているわけではないんだと。
僕の言った馬鹿げた取引を遂行して気を引かせようとしているだけなんだって……でも。
くぅ──── 指絡ませるって……可愛すぎるでしょ!! 今すぐ帰って襲ってしまいたいぐらいだ!
僕は理性と戦いながらも無理に作った平然な笑顔を伊織に向ける。
「いや、大丈夫だよ。レストランのオーナーには顔が利くから。それよりも伊織、誕生日おめでとう」
「ありがとう。でも、もうあまりおめでとうって歳じゃないんだけどね─」
──その後は、夜遅くまで賑やかな酒盛りが続いたことは言うまでもない。