【完結】終わった恋にフラグはたちません!
◇ ◇ ◇
──家に着いた時にはもう午前0時を回っていた。
「ほら、伊織。家に着いたよ、大丈夫? あ、靴脱ぎ散らかさないで」
「ゆうしぁ─ん! なんかこの部屋、あついろ─!」
「部屋じゃなくて伊織自身が熱くなってるんだよ。……あまり強くもないのにロング缶ビール五本も飲むかな─」
青雲先生の家では、あれからいろんな談議で盛り上がっては酒もつまみも進み、気がついたらもうこんな時間にまでなっていた。
伊織も同じ女性編集者やアシスタントさん達との会話が楽しかったみたいで、酔い潰れる寸前まで飲んでしまったのだ。
お開き後はタクシーを拾い、伊織をここまで背負ってきたが、正直こんなに酔っぱらった伊織を見たのは初めてのことだ。
背負ったまま部屋まで運んだ僕は、伊織をゆっくりとベッドの上へ降ろす。
「伊織、気持ち悪くない? 今、水持ってくるから待ってて」
一呼吸置いてベッドから立ち上がろうとした時、──突然、僕の腕に愛しい人の温かくて懐かしい感触が絡み付いてきたのだ。
僕はその感触だけで一瞬、体が強張る
お酒で火照っている伊織の体温はとても心地良く……敏感に反応する胸の高鳴りで、やっと抑え込んでいる僕の理性も飛んでいきそうだ
尚もそこへ、僕を煽るかのような言葉を伊織が甘い声で囁く
「……ゆうちゃん。本当は今日、すごい嬉しかったの……あんなに心配してきてくれて」
「伊織……」
お酒で酔っているせいか、いつもより素直で無防備な笑顔を見せる伊織
その笑顔はまるで媚薬のように、くすぶっていた僕の理性を一気に溶かしていってしまった
伊織がお酒で正常な判断もできないのに、このまま流されてはダメだと頭ではわかっていた。
わかっていたが……体が反して制御不能となってしまっている
今の僕にはもう、伊織を欲することでしか止まらない
伊織の火照った、ほんのりピンク色の頬に手をあてると伊織の体がピクッと一瞬微動する
あぁ……そんなトロンとした艶やかな表情を見せられたらやっぱりもう止められない
「伊織ごめん……僕、もう余裕ない」
「ゆう、ちゃん……」
これは取引のためか本心か……
少なくとも今だけは本能のままに、お互いを愛しく想い合うほど激しく体を重ね合わせてしまう。
──この後にまた、波乱が起きることなど知らずに……