【完結】終わった恋にフラグはたちません!
「あ! 伊織、おはよう。二日酔いとかなってない?」
リビングへ入ると、きっとまだ眠っているだろうと思っていたゆうちゃんが、エプロン姿で朝食の用意をしていたのだ。
この家に同居させてもらってからは初めて見る光景──そしていきなりの顔合わせに “気まずい” “どうしよう”というワードがぐるぐると頭の中を駆け巡っている。
「お、おはよう。……あ─、頭痛が少しひどいかな」
「ほらっ、やっぱりお酒弱いのに飲み過ぎだよ─。野菜スープも作っておいたから飲めば少し和らぐかもよ」
「あ、うん……頂こう、かな」
あ、あれ?
なんだかゆうちゃん……いつもとそんなに変わらない? いや、この時間に起きて朝食作っていること自体はいつもと違うんだけれど。
── え─と、昨日のことは特に触れてこない?
あ─、うんうん、それはそれで気まずくならなくて良かったじゃない!
昨日のことはなかったことにしましょうってことですかね─!?
あ、それともあれか、10:0にさせる為に私があんなことしたって思ってる?
はいはい、いい歳して気にし過ぎるほうがいけないんですよね……バカみたい。
「──ん? 伊織、なんか顔が怖いよ?」
「そうっ!? ゆうちゃんはなんだか楽しそうですね!」
いつもと変わってほしいのかほしくないのか、今の自分の心境がごちゃごちゃになっていた私は、どうやらスープを飲みながらゆうちゃんのことを睨んでいたみたいだ。
結局、その後は二人で普通に買い物なんか行っちゃてるし……
あ──……男ってわからない!────
──────────
「……ん。…伊織さ…ん」
「伊織さんっ!!」
「は、はい!?」
この一週間、今のような回想が入ってしまうと何をするにしても途中で手が止まってしまう毎日。
今も自分の名前を大声で呼ばれなければきっと、まだ回想の中にいる。
それをたった今、回想の中から引っ張り出してくれたのがアシスタントの双葉ちゃんだ。
「これ。ハンバーグ異様にしょっぱいんですが、塩入れ過ぎではないですか? あとコショウも」
私は今自分が何をやっていたのか現実へ必死に戻ろうとする。
──そうだ。ゆうちゃん達はまだしばらく仕事だからって、皆に夕飯を作って食べさせていたんだっけ……