【完結】終わった恋にフラグはたちません!
「あ、ごめんね双葉ちゃん! ちょっとボ─として調味料入れ過ぎちゃったかも。もし食べられなかったら何か出前でも……」
「いえ、大丈夫です。私が今からすぐ作り直しますので。これから正念場なのに澪先生が体調でも壊されたら大変ですし」
それって……私の食事で体調壊すと!?
「あ─双葉ちゃん。僕は彼女の夕飯でも全然……」
「いえ先生!! 今すぐ作りますから少しだけ待っていてくださいね」
「あ、うん…」
久しぶりにゆうちゃんの食事を作れるからか、双葉ちゃんは鼻歌混じりにとても上機嫌でキッチンに乗り込んできた。
最初から何となくはわかっていたけれど、双葉ちゃんはゆうちゃんへ尊敬以上の恋心を抱いているよう。
──と言うか双葉ちゃんは態度がとてもわかりやすい。ゆうちゃん含めおそらくここにいる全員、双葉ちゃんの恋心には気付いているはずだ。
……ん、全員?
あれ、そういえば昨日から石川君を見かけていないような……
「澪先生。石川君、どうしたんですか? 確か昨日からいませんでしたよね?」
私のその疑問に「あ─っと……」と言葉を濁しながら少しづつ顔が曇り出したゆうちゃん。前に座る律君と何やら目を合わせ始める。そしてその答えはゆうちゃんの代わりに律君が答えてくれたのだった。
「石川さん、昨日から無断で休んじゃってて。電話もかけてみたんだけど電源を切っちゃっているみたいで通じないんだ」
「え、石川君が!? そんな……あ、でも原稿はこの人数で大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ、今日頑張れば何とか乗り切れそうだから。……でも正直、無断で休むこと今までなかったからちょっと心配でね」
確かに、石川君のあのゆうちゃんへの崇拝ぶり……無断で休むなんて、先生が困るようなことなんてしないでしょ?
もしかしたら家で倒れてたりしてるんじゃ…?
「あの先生、私ちょっと今から石川君の家へ行ってきます。何かあったのかもしれないし」
「いや、実は今朝、双葉ちゃんにちょっと様子を見に行ってもらったんだ。そしたら住んでいたアパート、引き払っちゃていたらしくてね」
「もぬけの殻状態でした!」
急にキッチンから声を発した双葉ちゃんは、既に料理作りも後半に入っていきそうな勢いだ。
「そんな…石川君、どうして急に。──……先生、石川君の緊急連絡先とかってわかったりします?」
「あ─うん。一応履歴書をもらっているからそこに書いてあると思うんだけど……ちょっと待ってね」
そう言いながら自分のデスクの引き出しを探し始めたゆうちゃんは、たくさんある様々な書類の中から一枚の履歴書を取り出す。
「あったあった、これだ」
「忙しいのにすみません! 私、今からこの緊急連絡先に電話をかけてみます」
石川君の履歴書に書かれてあった緊急連絡先の住所を見ると、ここからあまり離れていない場所にありそうだ。
私は自分のスマホからそこに書かれてあった番号へ電話をかけてみる。
プルルルルップルルルルップルルルルッ──ガチャッ!
電話の奥で三コールほど鳴り響いた時、やっと繋がった相手先に向け私は直ぐ様話し始める。
「あ! あの、私、高藤出版の……」
「はいぃ! 石川組ぃ本部ですがぁ!?……もぉしもぉ─し──」
「…………」
え……い、石川組?
話すはずだった言葉を私は一瞬で飲み込んでしまった。