【完結】終わった恋にフラグはたちません!
『電話かわりました、大和の父親です。出版社の方とお聞きしましたが大和にどういったご用件で』
その声は自分がイメージしていたヤクザの大親分の声とは程遠い、とても穏やかに話す普通過ぎる口調。
『あ、はい。高藤出版の立木と申します。突然のお電話申し訳ございません。……あの、大和君が私の担当している漫画家さんのアシスタントをしておりまして、昨日から本人と連絡が取れなかったものでそちらにお電話差し上げた次第で。もしかして大和君……ご実家にお戻りでしょうか?』
『──はい。大和は今実家に戻っていますが、どちらの漫画家さんか存知あげないが、大和がもうそちらに戻ることはありません』
『え!? なぜでしょうか? 大和君は澪先生をとても尊敬していまして、自らもプロの漫画家になろうと──』
『はぁ? 澪、先生!? うちの大和がその先生のアシスタントをしていたんですか?』
『あ、はい』
澪先生の名前を出した瞬間、大和君のお父さん……組長は驚きの声を上げ何度もその確認を取ると、突然ある要望を私に伝えてきたのである。
『明日、その澪先生とあなたでうちへ来てくれませんかね。その時に大和含めお話をさせてもらいたいと』
明日……仕事はたぶん今日中にはなんとかなるはず。
お父さんではなく直接、大和君とも話せるのなら家に行った方が良いのでは。
『わかりました。明日午後でしたら伺えるかと思います』
『構いません。──では明日、お待ちしています』
……──────────
あの時、早計な考えで即座に返事をしなければ……。ゆうちゃんにも相談してから決めれば良かった……
「澪先生、立木さん!」
こんな厳つい方達に囲まれどうしようかと困っていた時、広い庭の真ん中にあるいかにも純和風な建物から私達を呼ぶ声が聞こえてきたのだ。
「あ、石川君! 良かった、やっぱりこっちに帰ってたんだね」
走ってこちらに向かってくる石川君を見た強面の男達は、一斉に私達から一歩離れ深々とお辞儀をし出す。
「坊っちゃんのお客人! よぉうこそいらっしゃいましたぁっ!!」
言葉は丁寧だけれどもその声量とドスの効いた声はさすがに怖いって!
「澪先生、すみませんでしたっ! 連絡もなしに無断で休んでしまって……それにこんな素性までも隠して」
「うん、まぁそれはいいんだけれど……石ちゃん、一体何があったの? 僕達まだ何も聞いていなくて」
「あ─、はい。それは……」
「それは私の方からご説明致します。おい、おめぇらお客人をさっさと客間に案内しねぇか!」
「へいぃ!!」
石川君の言葉を遮り、突然この場に介入してきたのは石川君のお父さんでもありこの石川組のトップ、石川 幸三組長。
──そして、その組長の後ろで隠れるように佇む美女が一人。着物を着ておしとやかそうなその美女は笑顔でこちらを見つめていた。
ううん、違う……見つめているのはゆうちゃんただ一人だけだ。
ゆうちゃんをとても愛しそうな目で見つめて、いる?