【完結】終わった恋にフラグはたちません!
「突然ですが、私には三人の子供がおります。長男の大和に次男の海斗……それに紹介が遅れましたが、ここにいるのは長女の亜里沙です」
紹介された亜里沙という美女は、綺麗な和服がよく映える整った顔立ちをし、ストレートの長い黒髪をポニーテールのように結わいている。
あの美女、組長の娘だったんだ。
見た目はまだ大学生と言った感じだけど……でも何で石川君の妹がこの場に?
「ゆくゆく私の跡は長男の大和に継がせようと考えておったのですが、肝心のこいつは漫画家になると言い張って家を出ていきましてな。──まぁそれでもいつかは諦めて、そのうち帰ってくるとは思っておったんだが……」
「そんなっ、石川君は漫画家としての才能があると思います! いつでもプロになれるレベルなんです」
「……ほぉ─、あなたでしたか。
この特殊な家柄を思ってか、大和は今までプロになることを拒んでいた。だから私もただの趣味としてならと安心していたんだが、最近になってこいつが本気でプロを目指すと言い出しましてな。
ちょうど誰の影響かと思っていたところです」
声は紳士的で穏やかな口調だが、相反して目付きは鋭く私を捕らえ、その眼光だけで人を震い上がらせそうな勢いだ。
「ちょ、父さん待ってください! 立木さんは今回のことに関係ありません! 僕が覚悟を決めたまでのこと……それより、もういい加減に認めてください。跡継ぎは海斗が継ぐことでいいでしょ? 本人もやる気あるみたいだし」
あぁ、そうか。やっと石川君がここにいる理由がわかってきた。
組長さんは跡継ぎである石川君に漫画家を諦めてもらう為、無理矢理、実家に連れ戻してきたんだ──そして、私がプロの道に誘った張本人だと思われている?
……嘘、私、組長を怒らせて殺されかねない存在なんじゃ!?
組長もさっきから怖い顔でずっと私を睨んで──
「ハハハッ! 別にいいぞ、大和! お前の跡継ぎのことはもう諦める。漫画でも何でも好きにするが良い!」
「えっ!?」
同時に私とゆうちゃん、そして石川君の三人は組長の予想外の言葉に対し一斉に声を上げてしまった。
え、ちょっと待って。そんなあっさりと……? だって、石川君を跡継ぎにしたいが為にこの家に閉じ込めてたんじゃないの!?
いや、お許しが出たのならそれはそれで良いことではあるんだけどね。
もっと揉めるのでは─とか、石川君を連れて帰るのは難しいのでは─とか、様々なことを考えていた私には、組長の呆気ない言葉で一気に力が抜けるようだった。
──しかし、これにはまだまだ続きがあったのである。