【完結】終わった恋にフラグはたちません!
◇ ◇ ◇
“あくつアパート”
二階建て1LDKの木造物件で主に単身者用に貸し出しているアパート。六部屋あるそのアパートの一階、端っこの部屋に今の会社へ転職した頃から私は住んでいる。
建築年数は結構経っているが駅近。更にこの辺りの家賃相場より安めというのが住む決定打となった。
……ガラガラガラ──
大文字駅の方へ舞い戻ってきた私は、繁華街にあるネットカフェの一室の前に立っていた。右手で中ぐらいのスーツケースを引きずりながら。
あちこちでパソコンのキーボードを叩く音が響く中、疲れきった私は目の前の扉を開けた。中は簡易的なソファーとパソコンが置いてあるだけの殺風景で狭い部屋。──スーツケースを部屋の中に入れ扉を閉めた途端、糸が切れたマリオネットのように私はソファーに倒れ込んでしまったのだ。
ハァァ── 疲れた─……でも何なのよ、上の住人が蛇口の閉め忘れ? ありえないんだけど!
つい三十分程前の出来事を頭に浮かべてしまうと、疲れや夜の癒しの時間が潰されたことによって倍増した怒りが何度でも込み上げてくる。せっかくの金曜日が台無しだ。
あぁ……でも当分の住むところ、一体どうしたものか──
────『一体、何があったんです?!』
電話をもらい急いでアパートまで駆け付けると、そこには電話をくれた不動産屋の人が待っていた。
『ああ立木さんですね! ……実は立木さんの上の住人203号室の方が、風呂場の蛇口を閉めずにそのまま眠ってしまったらしく……気づいた時には既に下の部屋まで水浸し状態だったみたいで──申し訳ありません!』