【完結】終わった恋にフラグはたちません!
「あ! 伊織、おはよう。二日酔いとかなってない?」
お互いが昨日のことを気まずくならないよう、僕は極めて明るく声をかける。
でも案の定、先に起きていた僕に少し動揺しているのか伊織はしばらくその場に立ちすくんでいた。
「お、おはよう。……あ─、頭痛が少しひどいかな」
「ほらっ、やっぱりお酒弱いのに飲み過ぎだよ─。野菜スープも作っておいたから飲めば少し和らぐかもよ」
「あ、うん……頂こう、かな」
スープ皿に野菜スープを盛りつけながら、ソファーに座る伊織を横目でチラッと見つめる。
すると伊織の顔は何だか百面相のようにコロコロと表情が変わっている。安心したような難しそうな……伊織の今の気持ちがなかなか読みづらい。
でも最後は何となく怒っている様子であることは感じ取ることができた。
「──ん? 伊織、なんか顔が怖いよ?」
「そうっ!? ゆうちゃんはなんだか楽しそうですね!」
雰囲気や言葉のトーンで、何となく怒っているのはわかるけれど正直、理由は昨日のことしか思い浮かばない。
やっぱ伊織……昨日のこと怒ってるのかな?
ここはあえて昨日のことを話題に触れてみるべきか…いやいや、余計に修羅場となって関係がこじれてしまったらもう修復不可能になってしまう。
今日は伊織も休みだし、気晴らしに外へ連れ出した方が良いのかもしれない。
「伊織、今日って何か予定ある?」
「予定…は特にないけど」
「じゃあさ、伊織の食器もあまりないし一緒に買い物行かない?」
「買い物!?……あ─、え─と…うん」
「良かった」
とりあえず伊織が了承してくれたことに僕は安堵した。
──でも、三十も過ぎて何中学生のような恋愛を僕はしているんだろう。
さっさと伊織にもう一度告白すりゃあいいのに……八年前の伊織の気持ちを考えれば拒絶されるのは当然だから、それを考えると怖くて動けなくなる。
それに伊織はこれから仕事に生きると言っていた。そう思うと、告白もしてはダメなのではないかと思ってしまうのだ。
それに少しでも伊織と昔みたいに過ごしたくて、10:0にしてなんて言っちゃたけれど。
ハァ─、10:0にしてなんて……なんであんなこと言ってしまったのか。
伊織が恋人のような感じで優しく接っしてきても、そこに伊織の気持ちが伴っていないんじゃ仕方ないのに──
きっと……一番いいのは、八年前の離婚理由をちゃんと話すことだ。
──でも、そんな勝手な理由を知ったら伊織はきっと、何で話してくれなかったのかと問いただすだろう。
それが例え、伊織の為だったのだとしても。