【完結】終わった恋にフラグはたちません!
第十四話 ☆ この想いはどこへ
そこそこのお酒を摂取しておきながら、全速力で走ることが体に悪いのは誰だってわかる。
でもそれは全速力で走ればという前提……今の私は全速力で走っているつもりっていうだけで、実際は足がもたついて全速力の三分の一ほどの実力でしか走れていない。
そんな状態でも酔いは徐々に醒めていき、 “早く帰ってゆうちゃんに……” という気持だけが先行して焦ってしまうばかりだ。
それでも何とか居酒屋を出て十五分程でマンションに着けたのは、飲んでいた場所がそこから近かったから。
私はチラッと腕時計を見つめる。
時計の針は二十一時を過ぎたばかりの所を差していた。
今日は石川君達も遅くまで残って仕事をするって言っていたけど、さすがに亜里沙さんはもう帰ってるわよね?
……それに、美鈴さんに感化されて勢いでお店を出てきちゃったけれど、ゆうちゃんに告白するって……一体どうやってしたらいいの? 双葉ちゃん以外はまだ皆いるだろうし、それよりなによりまだゆうちゃんが仕事中──
告白すると心に確固たる決断をしてしまうと緊張は当然するが、今まで燻っていた自分の気持ちが少し軽くなったような気がする。
あとはゆうちゃんにどうやって伝えたらいいか。
そんなことをあれこれ考え込んでいるうちに、いつの間にか部屋の玄関前に辿り着いてしまった。
自分だけお酒を飲んで遅くなってしまった手前なのか、皆の仕事を邪魔したくないからなのか──私は気を遣いながらそっと音もたてず玄関のドアを開け中へ入った。
──とその瞬間、玄関に見覚えのあるパンプスが目に飛び込んできたのである。
あれ、これって……確か、亜里沙さん、の?
嘘、亜里沙さんってまだ帰っていなかったの!?
私は一度大きく息を吸って吐きながら、ゆっくりと静かにリビングへ続く廊下を進んでいく。
そして、リビングドアの明かり窓から中の様子を伺うと、そこには亜里沙さんがゆうちゃんの肩に手を置きながら二人仲良く談笑する姿が──
……え…あれ、なんか…二人、朝より仲良くなって、ない?
その二人の光景を見た私は、胸をぎゅっ─と誰かに掴まれているような感覚に陥った。
──とても苦しくて、熱くなっていた自分の目頭が緩んでいき、目の前が徐々に滲んでいくのがわかる。
……あ─、私ったら帰るの気まずいからって、何で居酒屋なんかに行っちゃったんだろう……
普通こんな時って、早く帰ってライバルを阻止するべきなんじゃないの?
──まったく…自分の恋愛力のなさにヘドが出る。
「あれ、立木さん? お帰りなさい! 今日は遅かったんで……す、ね?」