【完結】終わった恋にフラグはたちません!
誰もいないと思っていた後ろから突如、声をかけられた私は、びっくりし過ぎて涙を流したままの顔で振り返ってしまった。
そこにはお風呂から上がったばかりの石川君が、首にタオルをかけながら驚いた顔で私を見つめてくる。
「ど、どうしたんっすか立木さん!? え、何かありましたか? どこか痛いんっすか!」
私は慌てて涙を拭き何とか平常心を保とうとしたが、それはなかなか難しそうだ。
涙の説明を出来ない今、早くこの場を逃げ出す言い訳を頭の中で絞り出すほかなかった。
「あ、石川君……こ、これは何でもないの。ちょっと目にゴミが入っちゃったかなぁ─。……あ、そ、そうだ、私ちょっとコンビニ行ってくるね! なんか買い忘れたものがあったみたいで」
あ─、下手過ぎる言い訳だ─。
そう思いながらも、なるべくぐちゃぐちゃな顔を見られまいと、私はうつむき加減で石川君の横をすり抜け、玄関のほうへと向かって行った。
「立木さん……あの、待ってください!」
石川君の制止する言葉も耳に入らず、私は玄関の外へと出て行く。
そんな私がちょうど出て行ってしまったその時、石川君の声を聞きつけたのかゆうちゃんがリビングから出てきたのだった。
「石川君? どうしたの?」
「あ、澪先生……今、立木さんが……」
「え、伊織帰ってたの?」
「あの…すみません、澪先生! 俺、少し出てきますっ!」
首にかけていたタオルを放り出し、石川君はまだ乾ききっていない髪もそのままに私の後を追って部屋を飛び出した。
「──澪先生? どうかされたんですか?」
「亜里沙さん。いえ、何でも……」
そう言ったゆうちゃんは、亜里沙さんをそなままリビングへ連れ戻しながらふと玄関の方へと振り返る。
「澪、先生…?」
「あ、いや──……」
そう言いかけ、中途半端な言葉を残したままのゆうちゃんの足は、いつの間にか玄関へと走り出していた。