【完結】終わった恋にフラグはたちません!

「澪先生の一部…先生と同じですね」

私が答えた言葉に少し考え込む様子を見せる亜里沙さん。今までと違って何だか神妙な面持ちだ。こんなに何でも持ち合わせているような子でも、なにか人に言えないような悩みなどがあるのだろうか。

「……亜里沙さん、もしかして何か私に話したいことでもあったり、する?」

ただの私の勘。
でもなぜだか亜里沙さんが私を引き留めたのには、何か他に理由でもあるような気がしてならなかったのだ。

「……は、い、あの…立木さん。今日お仕事が終わった後……少しお時間頂いてもいいでしょうか?」
「うん、大丈夫だよ! じゃあ…十八時に最寄り駅前のカフェに待ち合わせでもいいかな」
「はい。──あ、あと……ごめんなさい…」
「ん? ごめんなさいって?」
「私、立木さんに嘘をつきました」

嘘……?

亜里沙さんは謝罪の言葉と共に私にお辞儀をしてきたのである。

「私……確かに澪先生は好きですごい尊敬しています。…あ! でもそれは漫画家さんとしてという意味で。……なので、あのお見合いはカモフラージュというか」
「カモフラージュ!?」
「はい…あの、私には──」

ガチャッ!!

とっても大事なことを言いだしそうな亜里沙さんの言葉は、そのリビングドアを開ける音と共にかき消されてしまった。
そして、大あくびをしながら石川君がリビングへと入ってきたのである。

先にリビングにいた私達に気付くと石川君は、まだ途中だったあくびを急いで引っ込め気まずそうな雰囲気を醸し出してくる。
でもそれは私も一緒だ。

「あ─……二人共、早いね。おはよう、ございます」
「おはよう─…っていうか、なんでお兄ちゃん敬語?」
「う、うるさい! 亜里沙はこれから学校だろ? 早く行けよ」
「言われなくてもわかってるわよ! あ、じゃあ立木さん、夜にまたお話ししますね」
「う、うん。行ってらっしゃい」

そう言って亜里沙さんはリビングを去り部屋へと戻っていったのだ。

う─…出来れば、亜里沙さんのあの言葉の続き、今聞きたかった─!
お見合いはカモフラージュ? って一体どういうこと……

「あの、立木さん」
「……は、はい!」

そうだった、今は石川君ともとても気まずい状態……早くお断りしなくちゃいけないのに、いざ本人を目の前にするとなかなか言い出せない。

「亜里沙のこと……大丈夫っすか? なんか、会う約束していたみたいだし」
「あ─、うん、平気だよ。話してみると亜里沙さんってとても可愛らしくていい子」
「そうっすか…まぁ、立木さんが普通に戻ったみたいで良かったっす」
「アハハ……」

そんな会話をした後、私達の間にはしばし無言が続く。お互い気まずそうに目を逸らしながら。

「あっ! あ─、私もそろそろ会社に行く準備しなきゃ。じゃあ石川君、また……」
「あのっ! 昨日の話し…」
「あ…うん」
「昨日、立木さんが弱ってるところにつけ込んで勝手に告白して……困らせてすみませんでした」
「う、ううん、全然…男の人に告白されたことなんてないに等しいから──正直、嬉しかった、です」
「…そ、そうっすか! …あ、でも立木さんが澪先生のこと好きなのはよくわかってるつもりです。けど俺……澪先生に負けたくないっすからっ!」
「…………」

そう言いながら真っすぐな眼差しを見せる石川君。彼はこの一晩で何かを吹っ切ったようにまた昨日とは違った印象を感じさせる。
きっと石川君もこの夜長に色々と考えていたのかもしれない。

そんな真剣な彼を目の前にして、私はまた何も言えなくなってしまった。

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