【完結】終わった恋にフラグはたちません!
第十六話 ★ お見合いの実情(祐一side)
【スタンリー横浜ベイホテル】
そこは横浜市内でも有名な一流ホテル。
一泊するだけでもかなりのお値段がするという、一般市民にはなかなか泊まりにくいホテルである。正直僕も、こんなことでもなければなかなか来ることもなかっただろう。
──ドンッ!!
「あっ! すみません」
見合い会場へ行く途中ホテル内で、やや小太り気味の小柄な中年おじさんとぶつかってしまった僕は慌てて謝る。
しかし、そのおじさんはこちらを見て頭をチョコンと下げただけで、急いでその場を立ち去ってしまったのだ。
ラフなポロシャツに少しヨレッとした長ズボン……なんか、このホテルに似つかわしくない格好の男性だな。
取るに足らないそのお客のことが少し気になりつつも、僕はホテルの二階にある “菊之丞” という和食店へ向かう。
そして和食店の個室へ通された僕は、亜里沙さんが来るまでの間、角のたたない断り方を考え込んでいた。
僕に急な見合い話が持ち上がって三日。
そもそもこのお見合いは僕にとってはただの建前。一応お見合いを受けた事実を前に石ちゃんの漫画家への将来は開けるだろう。
見合いだけすれば何もかも丸く収まるはず……と思って、この見合いを受けたのだけれども…
何故だかこの三日間、伊織がどこかよそよそしい雰囲気を醸し出してくる。
見合いが決まってからお互い仕事が忙しくなかなか二人っきりで話すチャンスもなかったし──もしかしたら、見合いを受けたことに呆れられているのか? それとも怒ってる?
もし怒っているとしたら……それは嫉妬してくれているからなのか?
見合いをする前にちゃんと話さなければと、今朝出かける前に伊織にちゃんと伝えてきたつもりなんだけども。
『伊織、大丈夫。一応お見合いはするけれど後から断れば何の問題もないだろうしね!』
『うん……』
伊織はその頷きの言葉だけで後は何も言ってくれなかった。
あれだけでちゃんと……伝わったのだろうか──?
亜里沙さんへの断る言葉を考えていたつもりが、いつの間にか伊織のことを考えてしまっている自分にハッと気づかされる。
「──失礼致します。お連れ様がお見えになられました」
突然のその言葉と共に、スッと開いた襖の奥からこの店の中居さんがお辞儀をして入ってきた。
続けて、三日前に逢った時とはまた違った装いの綺麗な着物に身を包んだ亜里沙さんがおしとやかな所作で入ってくる。
確かに亜里沙さんは、大学生と言えども大人っぽい美女だということはわかる。でも、なんでそんなに若い子が僕とお見合いをしたがるのかは全くわからない。
「今すぐ、お料理の方をお持ち致します」
そう言って、中居さんは部屋を後にした。
「あ、の…亜里沙さん。今日は見合いと言っても何と言うか……亜里沙さんには申し訳ないのですが、今日僕は断る前提でここに来ておりますので、そこはわかって頂きたいのですが」
「…………は、い…」