【完結】終わった恋にフラグはたちません!
慌ててスマホを切った私はすぐに帰り支度を始めながら、亜里沙さんにも帰る支度をするよう促す。
「亜里沙さんも、今すぐここを出る準備して!」
「え、どうしたんですか? 澪先生に何か?」
何が何だか分からず私に急かされるままスマホを鞄に入れる亜里沙さん。ここから急げばゆうちゃんのマンションまで五分ほど──まだいればいいけれど。
カフェを出た私は、少し小走りになりながらまだ何も理解していない亜里沙さんに今起きている状況を説明する。
「亜里沙さんっ!
今ね、澪先生のマンション辺りで亜里沙さんの彼氏さんがいるみたいなの。……だから何か言いたいことがあれば今がチャンスだよ! 亜里沙さんの想いをちゃんとぶつけよう」
──って、私がこんな偉そうに言える立場じゃないのは自覚しているけども、今は亜里沙さんの恋を応援したい!
そう亜里沙さんに伝えた途端、私に連れられて小走りだった亜里沙さんのスピードが徐々に落ちていく。そして最終的にその足が止まってしまったのである。
「亜里沙、さん? どうしたの、今行かないと今度いつ逢えるか……」
「…あの……少し…彼に逢うのが……怖いんです。彼とずっと逢いたかったんですけど、いざ逢えるかと思うと、何か決定的な言葉を言われるんじゃないかって」
「でも…澪先生のマンションやお見合い会場に来るってことは、本当は亜里沙さんのこと気になって仕方ないんじゃ…」
「じゃあ、なんで直接私に逢いに来てくれないんでしょうか……」
女心はとても複雑。逢いたいのに逢いたくない亜里沙さんの気持ちはよくわかる。
──でも、確かにこのまま逢おうとしてまた逃げられたら、いつまで経っても亜里沙さんの気持ちは宙ぶらりんのまま……どうしたら…
私はここで漫画オタクとしての頭脳をフルに働かせてみる。今まで見た膨大な漫画の “あるある恋愛ストーリー” の中から一つのある仕掛けを思い出したのだ。
私は急いで鞄からスマホを取り出し、ゆうちゃんに電話をかけてみる。
「あ、澪先生! あのお願いが────」
一か八か、上手くいくかどうかはわからないけれど、また逃げられるよりはましだ。…でも、もしここで来なかったら亜里沙さんには悪いけれど、それまでの男だったということ──
澪先生にある作戦を伝え終えた私は亜里沙さんの手を取り、再度一緒に走り出した。
「ハァハァ……た、立木さん、一体なにを……?」
「うん! これから一芝居打ってみようと思って!」
「一芝居?」
「大丈夫。亜里沙さんはそのままジッとして澪先生に任せていればいいから!」
さぁ、彼氏さん!
あなたも覚悟を決めて出てきなさい。
出てこないと一生後悔するんだから!
チクンッ……
その言葉はまるで今の自分の状況とリンクするようで……あぁ胸が痛い。