【完結】終わった恋にフラグはたちません!
◇ ◇ ◇
十九時半──
この時間帯だと仕事から帰ってくる人がまだ大勢いて当たり前。
高層マンションにあるオープンスペースも例外ではない。一仕事終え、温かい家族の元へと急いで帰ろうとする人達がたくさん見受けられた。
そんな中、私と石川君はオープンスペースの広場から見えないよう、ある草陰の中でひっそりと身を隠す。ここならゆうちゃんと亜里沙さんの様子もよく見える。
そして、亜里沙さんの彼氏さんはいくつかある一つのベンチに、ソワソワと落ち着かない様子で座っていた。
「……でも、亜里沙にあんな彼氏がいたなんて全く知らなかった。それに…まさか、ああいう男性がタイプだったとは」
ベンチに座る彼氏さんを見つめながらボソッと独り言を言う石川君。
石川君もついさっき、ゆうちゃんから亜里沙さんの事情を知らされるまで寝耳に水だったらしい。
でも、この作戦を伝えた時は快く手伝うと言ってくれたのだ。──同じ環境で育った石川君も、もしかしたら今までに亜里沙さんと似たような経験をしてきたのかもしれない。
少なからず亜里沙さんの気持ちがわかるのかも。
「──で、立木さん。亜里沙は今どこに?」
「亜里沙さんは、彼氏さんに見えないところで一人待機してもらってるよ」
「なんか……何から何まで皆に迷惑かけて申し訳ないっす」
「ううん、そんなことないよ─。亜里沙さんの積極的なところ、私は見習いたいぐらい。
……あとはまぁ、澪先生の演技力で彼氏さんがどう出るか」
「これで出てこなかったら、マジに別れさせるっす!」
そう言うと左拳を掌に力強く打ち付けるポーズを取った石川君は、いつもと違い鋭い眼光で彼氏さんを睨む。
石川君もやっぱり妹の亜里沙さんのことは可愛いと見える。
── そして、この作戦はこうだ。
お見合いをしたゆうちゃんと亜里沙さんの二人は意気投合(仮)し… → 彼氏さんの見える位置で二人は、そのいちゃつく姿を見せつける。(ここはゆうちゃんの演技力が必須) → そんな二人の姿を見た彼氏さんがどんな反応を示すのか?
とてもシンプルかつベタな作戦。
どこかの漫画で見たことのあるストーリー、大抵はヒロインを奪い返す設定にはなっているけども……現実はどう転ぶかわからない。
自分でも、もしかしたら余計なことをしているのではと感じるところもあるけども、憔悴し切っている亜里沙さんを見ていると何かせずにはいられなかった。
そしてもし今回、彼氏さんが何のアクションも起こさなければ亜里沙さんはキッパリ別れると言っている。
「あ……二人、出てきたっす!」
うぅ─……ゆうちゃんと他の女性がイチャイチャしている所はあまり見たくないけども……でも今回だけ、頑張ってゆうちゃん!