【完結】終わった恋にフラグはたちません!

あえて彼氏さんから遠からず近からずの距離で二人がいちゃつく作戦。
正にいいポジションという場所でゆうちゃんと亜里沙さんの二人は落ち合った。

「亜里沙、おかえり! 帰りが遅いから迎えにきたよ」
「あ…み、澪先生、ただいま、です」

ゆうちゃんは人たらしというか色んな経験をしてきたからというか、こういう女性とのやり取りは慣れていそう。
でも、亜里沙さんはどこかよそよそしい……まぁ、急に恋人らしく演技しろと言われたら誰だってこうなる。私だってきっとガチガチの棒読みになってしまう。
しかし、そんな感じの亜里沙さんをゆうちゃんは優しいテクニックでカバーしていく。

「ほら。もう結婚する中なんだしそんな呼び方じゃダメだよ。 “祐一” って呼んでよ」
「あ、は、はい……ゆ、祐一、さん」

亜里沙さんはゆうちゃんの名前を少し照れくさそうに小声で呟く。

ギュッ──…!

あぁ、自分で思いついた作戦とはいえあの二人のやり取りを見ていると自分の胸が締め付けられるようだ。

その時、ゆうちゃんが急に亜里沙さんを包み込むように抱き寄せ二人は固く抱き合うような形に。
私は咄嗟に二人から目を伏せてしまったが、隣の石川君が彼氏さんの動向を実況してくれている。

「彼氏、二人のことめっちゃ見てるっす。……あ、ちょっと立ち上がりそうに…ってまた座りやがった! 煮え切らねえ男っすね!」

石川君の言う通り、彼氏さんは二人を見つめながら座ったり立ったり、まるで自分の中の葛藤と戦っているみたいだ。

「え、あの、澪先……」
「シッ、彼が見ているよ。……亜里沙、今日、片時も君を忘れなかったご褒美にここでキスをしてもいいかい…部屋まで待てそうにもない」
「え! せ、先生!?」

驚く亜里沙さんとは対照的に顎クイをして唇を重ねようとするゆうちゃん。

「え、澪先生、マジに亜里沙と!?」

彼氏動向担当の石川君も突然の澪先生の行動に驚き、いつの間にか彼氏の動向よりも二人のやり取りに釘付けられている。

え、ちょ、ちょっとゆうちゃんっ!
そこまでやってなんて言ってない!
……まさか本当にするわけじゃ…ないわよ、ね?

二人の唇が徐々に近づいていく。周りの人達も絵になるそんな二人の姿をチラチラと見入りながら通り過ぎていく。

お互いの唇の距離があと数ミリとなった時、私はいつの間にか隠れていた草陰から無意識に飛び出してしまっていた。

「え、立木さん!!」


「や、やめてくれぇっ────!!」


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