【完結】終わった恋にフラグはたちません!

どのぐらいの時間、私達は唇を重ねていたのだろう。

それは大人のキスとは違い、ただ何度も唇を重ねるだけの軽いキス……きっと、腫れている私の頬を気遣ってくれたのかもしれない。
でも私はそんなゆうちゃんの優しさとは裏腹に、もっとゆうちゃんに密着したいという淫らな欲望が出てしまいそうになる。

目元がトロンとしている私をよそ目にゆうちゃんは重ね合わせていた唇を私から徐々に離していく。

「ゆう、ちゃん……」

ゆうちゃんをもっと欲しがるような甘い声は、更に彼を煽らせてしまったようだ。ゆうちゃんは自分の口を手で抑えると、急に顔を赤くしながら目線を私から外していく。

「──ヤバい…んだけど、伊織。めちゃめちゃ今…理性保つの辛い。そんなエロい顔してたら余計に、だよ」

その言葉で一気に我に返った私は赤くなった顔を両手で隠す。
ゆうちゃんも少し恥ずかしさを残しながら先程まで座っていた椅子へオズオズと戻っていく。そして、自分の気持ちを静かに語りだしたのだった。

「ごめん伊織。…僕がバイっていうのは本当だけど、伊織に言った10:0(じゅうぜろ)の話……それは嘘、なんだ」
「え…嘘?」
「ああ。僕はとっくに…伊織と初めて逢った時から今もずっと伊織しか愛せない、10:0(じゅうぜろ)なんかとっくになってる」
「──そんな…じゃあ、なんで? …なんであの時離婚なんかしたの? 訳わからないよ、好きだったのなら何で私達別れなきゃいけなかったの、私だってずっとゆうちゃんのこと……」

本当に訳がわからない。ゆうちゃんの気持ちが今も昔も全然、わからないよ……
私のゆうちゃんへの気持ちはいっぱい溢れ過ぎてしまって…まう止まらなくなっているというのに──

「伊織……?」
「…わ…私、私だってずっと…ゆうちゃんのことが好きだったんだからぁ! 八年前も今もずっと! だからぁ!ゆうちゃんに離婚された時─、ヒッ…すごい…ヒッ、辛かったんだからぁ──!!」

三十路になったばかりのいい大人が周りにゆうちゃんしかいないとはいえ、(はばか)りもせず大泣きをしてしまう。今まで抑えてきたもの隠していた感情が一気に外へと放出されてしまったのだ。
わんわんと泣きじゃくる私を見て焦るゆうちゃんは、ひたすら謝るしかなかった。

「ご、ごめん、本当にごめん伊織! この八年間、伊織をずっと辛い気持ちにさせてしまってごめんね……。
でも…伊織も僕と同じ気持ちでいてくれて今すごく嬉しい。
──当時、伊織にもちゃんと離れる理由を話せればよかったんだけれど…その時はどうしてもできなかった」

八年前のことを思い出しているのか、ゆうちゃんは時々とても辛そうな顔をする。

「ヒック…ゆう、ゆうちゃん。八年前、一体何があったのか教えて。……私は、もうゆうちゃんと離れたくない」

──そう…私とゆうちゃんが別れた理由。

重苦しそうな溜め息を吐くとゆうちゃんは、ある一人の悪女の話しをゆっくりと話し始めたのである。


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