【完結】終わった恋にフラグはたちません!

◇ ◇ ◇

商品の御披露目パーティーは何事もなく無事、盛況のうちに閉会となった。
その後は場所を移して内輪だけの二次会が催される手筈となっていたが、早く家に帰りたい僕はそのまま途中、抜けてしまおうと考えていた──のだが…。

「え─、三栗谷さん、もう帰っちゃうんですかぁ─。もっと一緒に飲みましょうよ─」

トイレに行くふりをしてそっと帰ろうかとしていたところを、高光さんに見つかってしまったのだ。

二次会場所は先程までの広いパーティー会場とは違い、こじんまりとしたカラオケ大衆居酒屋。個室であるこの部屋には大体十人ほどの関係者が集まっており、既にかなりのお酒の量が入っている者がほとんど。
その中には高光さんのファンと言っていた司も含まれている。

「そうだぞぉ─ゆう! せっかく杏ちゃんが誘ってくれているんだ。もう少し飲もうぜ─」

この酔っぱらいめ。せっかく帰るチャンスだったのに司が焚き付けてどうするんだよ……

「ね、お友達さんもこう言ってることだし、私の顔を立てると思ってもう少し一緒に飲みましょう、三栗谷さん!」

そこまで言われてしまうと、なかなか帰りづらい雰囲気になってしまう。
カラオケ部屋に誰かさんの歌声がエコーで響くなか、僕は小さな溜め息を吐き渋々と席へ戻った。そして直ぐ様、僕の横に高光さん陣取ってくる。

「ねぇ、三栗谷さんって─、すごいスペック高いですよねぇ! いい所お務めだし、めちゃイケメンだし、それなのに奥様一筋なんて……なんか妬けるな─。結婚してなかったら私、狙ってたのに」
「いや、高光さんの方こそオモテになるでしょう。芸能関係にはカッコイイ方もいっぱいいるし、結構いろんな方と噂になっているのを耳にしますよ」
「え─、そんなの全部ガセですよぉー! 皆、顔だけで中身空っぽなんですから。──私は顔も中身も伴っている人がタイプなんです」
「はぁ……」
「あ、それよりもう一度二人で乾杯しましょ! …山上─、三栗谷さんの分のお酒も持ってきてぇ─」

遠くで皆の分のお酒やら食事を片付けては注文に徹していた高光さんのマネージャー、山上 塔子(やまがみ とうこ)は彼女の言葉に「はい!」とだけ返事をし、近くにあったビールを素早く持ってきてくれたのである。

「すみません、山上さん。……じゃあ一杯だけ」
「ハ─イ! 三栗谷さん、かんぱ─いっ!!」

ほとんど高光さんのノリに乗せられていた僕は、その言葉の合図と共にビールを一気に飲み干す。
その時ふと、近くにいた山上マネージャーの姿が目に入ってきた。すると彼女はこの盛り上がりとは似つかわしくない表情……なぜか苦々しい、申し訳なさそうな顔を見せている。

到底、その時の僕には彼女の表情の意味なんて読み取ることはできない。


── その表情に隠された意図に気付くのは……明日の朝になってからだった。



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