【完結】終わった恋にフラグはたちません!
よし! 忘れよう! 今日は待ちに待った楽しいイベントなんだ……気持ちが腐ってたら今日一日勿体ないじゃない。
早速、行列の仲間に加わった私は事前に入手したコミケ会場の案内図を取り出した。今日回るブースは赤く丸をつけ番号がふってある。これも多くのブースを回るために無駄のない動きをする為だ。
まず先に、一番人気のある“連先生”のブースへ向かおう。たぶん早く並ばないと同人誌が売り切れる可能性もあるし……
連先生とは正体不明のアマの漫画家さん。コミケが開催されると、瞬く間に漫画が売り切れてしまうほどの人気を誇っている。
連先生の描くストーリーは、主人公の女の子がある動物に変身し、恋したイケメン魔法使いと一緒にその呪いを解く旅をするラブファンタジーもの。このイケメン魔法使いの胸キュンさせる言葉回しが女子には最高の癒しなのだ。
ようやく入場することのできた私は急いで連先生のブースへと向かった。
ブースでは案の定、すでに若い女の子達の列ができておりキャッキャとはしゃいでいる。その中へ三十路の自分が入っていくことに一瞬躊躇してしまうが、今更羞恥心を持っていても仕方がない。最後尾に並び始めた私は連先生のブースが近付くにつれ、自分の胸がトキメキ始めていくのがわかった。
そして、自分の番まであと十数名といったところでようやくブースの全貌が目に飛び込んできたのである。
あれはスタッフだろうか……ブースでは数名の男女がウサ耳のカチューシャを頭につけ、ヒロインキャラが描かれた派手めなオリジナルTシャツをお揃いで着ている。
なんだかみんな可愛い。あのTシャツは売ってくれないのかし、ら…………
──次の瞬間、私は言葉を失った。
ある一人のスタッフを見つけた時、その目に一瞬で吸い込まれ彼から目が離せなくなってしまったのだ。今までの胸のトキメキが一瞬で凍りつく。