【完結】終わった恋にフラグはたちません!
「…あれ、お兄ちゃん? そんなところでどうしたの?」
突然、病室の外から聞こえてきた亜里沙さんの声。そしてすぐに病室の扉が開き、亜里沙さんと石川君、そして亜里沙さんの彼氏さん?が中へ入ってきた。
「立木さん!? …あぁ良かった、 立木さん目を覚ましたんですね」
少し涙ぐみながら私の元へ駆け寄る亜里沙さんは、すぐに隣にいた彼氏さんと深々とお辞儀をし始める。
「本当に今回はすみませんでした!
私、亜里沙ちゃんとお付き合いをさせてもらっています大川 守と言います。
今回のこと亜里沙ちゃんから全て聞きました!…私の煮え切らない行動のせいで皆さんに大変なご迷惑をおかけしてしまって……立木さんにも怪我をさせてしまうし…本当にすみません!」
亜里沙さんの彼氏さん── 大川さんは本当に申し訳なさそうな態度で全身全霊、私に謝ってきた。
いや、でも今回のことは私が計画して大川さんの嫉妬心を煽らせてしまったのだから私にも責任がある。
ゆうちゃんに支えられながら上半身を起こした私も、大川さんに向けて謝る。
「私の方こそスミマセン。大川さんの気持ちを試すようなことをしてしまって……でも、お二人がここにいるっていうことは、あれからちゃんとお話しができたっていうことですか?」
その私の言葉で二人は少し顔を赤く染めお互いを見つめ合い、そして照れくさそうに亜里沙さんが報告してくれたのだ。
「…はい。まぁくん…彼が覚悟を決めてくれて、私が大学を卒業したら結婚しようって言ってくれたんです。それまではうちの父に認めてもらえるよう頑張るって」
「そっか─…ちゃんと話し合えて良かったね、亜里沙さん!」
「はいっ!」
「でも、結婚までにうちの父親に殺されなきゃいいけどな」
「い、石川君─!」
急に横やりを入れた石川君が、洒落にもならない言葉を彼氏さんに向かって言い放つ。あまりにリアルな物言いに大川さんは少し身をすくめている。
「あ、そう言えば “結婚” で思い出したんですけど、澪先生」
「ん?」
ベッド横に置いてある鞄の中からスマホを取り出した私は、昨日の夕方、編集長から届いていたメッセージをゆうちゃんに伝えようとした。
“この恋の帰る場所” のドラマ化にあたり、ヒロインの相手役は既に決まっていたけどもヒロイン役の子がまだオーディション中だった為、ずっと空白のままだったのだ。
それが昨日ようやく決まり、編集長から取り急ぎそのことを澪先生にも伝えておいてという内容。
「え─と、ですね…ドラマのヒロイン役の子が決まりまして──え……あ、れ」
編集長から来たメッセージを読んでいくうちに、スクロールしていた指がピタッと止まる。
「どうしたの、伊織?」
「み、澪先生……さっき話していた八年前の、タレント、って確か……」
「高光 杏っていう子…だけど…え、もしかして」
顔が段々と青ざめていきながら、私はスマホに届いていたメッセージをゆうちゃんに見せる。
『 “この恋の帰る場所” のヒロインは女優の高光 杏さんに決定したらしい。澪先生にも伝えておいてくれ』
「噓だろ(でしょ)……」
私とゆうちゃんは同じ言葉を息ピッタリに呟いたのだった。