【完結】終わった恋にフラグはたちません!
「その若手イケメン俳優の何人かも、澪先生と同じような感じで高光 杏に喰われちゃった子がいて……」
「りぃ─つぅ─!」
突如、石川君が圧を加えるような言い方で律君の名前を呼んだ。どうやら私のことを気づかってくれたらしい。
「あ、いや、澪先生が喰われたなんて思ってないからね、伊織ッち! ……あ、で、それでね、やっぱり高光 杏と飲んだ後に意識を無くして、次の朝ベッドインしているってことが多いみたいなんだ。
その後はヤクザって言う後ろ盾を武器に脅して貢がせる……で、金が無くなったらポイッらしい。それで芸能界辞めた俳優さんも多いみたいだよ」
聞けば聞くほどヤバい女……そんな女が原因で私とゆうちゃんが別れたなんて。
今回もまた何か企んでるんじゃ…
「でも、澪先生も澪先生です。別にもうそんな女のわがままなんて聞く必要ないじゃないですか!? わざわざ二人で逢うのを承諾するなんて……」
「双葉。…冷静に対応する澪先生のことだ、何か自分なりに考えがあるんじゃないかな」
いつもゆうちゃんには好意的だった双葉ちゃんまでもが、私の知る限り初めてゆうちゃんの行動を否定し始めた。
──あぁ、これ以上私のわがままに皆を巻き込んだら、アシスタントと澪先生の関係まで悪化してしまうんじゃ…
「…皆、なんかごめん、色々調べてくれてありがとうね! 後はさ、私の方で何とかしてみるよ。だから皆は次の仕事に備えて今日はゆっくり休んでね」
皆に何でもないような笑顔を振りまくその裏では不安な気持ちしかなかった。
この事実を元に一人で悪女に立ち向かうことが出来るのか、ものすごく不安。
でも、もう…そんな女がゆうちゃんに近づく方がよっぽど嫌……今度は私がゆうちゃんを守りたい。
そんな不安を押し殺した笑顔の裏で、確固たる決意をしていた私の耳に、亜里沙さんの一声が突き刺さる。
「何言ってるんですか、立木さん!! 立木さんが断っても私、何でもお手伝いしますから!……それに澪先生の漫画のヒロインにあの女は不適格ですっ!」
「私も…あんな女のせいで澪先生の漫画を汚されたくはありません。なのでその為ならなんでもします」
「──何だか面白そうだし、僕っちもやろうっと!」
「……って言うことなんで、立木さん。皆で明日の作戦を考えましょう!」
そんな皆の言葉を前に、無理して作った笑顔は緩んでいき自然と涙が溢れ出てくる。
不安だった気持ちが皆の頼もしい言葉によって一気に打ち消されていく。
「ほらぁ、伊織っちももういい歳なんだからそんなに泣くとシワ増えるよ─」
「……ヒック…り、律君、い、いい歳は余計だよぉ─」
ここにいる誰よりも年上のはずなのに年甲斐もなく涙が溢れすぎて、その後もなかなか自分の涙を止めることが出来なかった。