【完結】終わった恋にフラグはたちません!
「え、ええ。山上さんはとても気が利くし、私が社長に無理を言ってずっとマネージャーをお願いしているんです。
……それよりも私、三栗谷さんが離婚されてからずっと、来てくれるのを待っていたんですよ」
「そうなんですか? 僕が商社を辞めたからてっきりもう用無しになったのかと思っていましたけれど」
高光 杏は自分に不利な言葉は耳に入らないようだ。ゆうちゃんのその会話には返答もせず、自分の欲望のまま突然カクテルを掴むゆうちゃんの手をそっと握ってきたのである。
ハァ─!? ちょ、ちょっと何どさくさに紛れてゆうちゃんの手を握ってるのよ!
「ねぇ三栗谷さん、覚えていらっしゃるかしら? ……私って顔も中身も伴っている男性がタイプって言ったこと。
やっぱり三栗谷さんは私の理想にピッタリだわ」
「フッ…それは奇遇ですね。私も才能溢れる方は嫌いじゃない」
「あら、じゃあ私達ピッタリじゃない。……ねぇ、このホテルに部屋を取ってあるの、今夜は私と楽しく過ごさない?」
ゆうちゃんの色気や言い回しにやられたのか、高光 杏は頬をピンク色に染めトロンとした目を浮かべゆうちゃんに迫ってくる。
え、ちょ、っと待って……まさかキスなんてしないよね、ゆうちゃん!?
もはや顔を伏せるのも忘れ、私はすぐ後ろの二人に見入ってしまっている。
二人の間は今にもキスをしてしまいそうな距離まで近づいていく。
「…ね、ねぇヤバくないですか? 立木さん、止めるなら今なんじゃ……立木さん?」
わかってる。亜里沙さんの言うことはごもっとも。
……でも、いざとなると体が固まって動かなくなってしまう時ってあるものだ。
自分の心臓がドクッドクッと波打つ。
あぁ、こういう時こそ早く二人の間に入って止めなければいけないのに!
ガタンッ──
やっと指令に従った自分の体は、勢いよくその場に立ち上がるとその反動で、座っていた椅子が音を立てて後ろに下がっていく。
──と、石川君と亜里沙さんがゆうちゃん達の方を見つめ、同時に「あ…」と小さく声が漏れ出す。
「残念だが、君には全く興味が沸かない」
突然後ろからはっきり拒絶するゆうちゃんの声──
振り返ると、ゆうちゃんの右手によって高光 杏の唇が寸前で防がれていたのである。