初恋ディストリクト
「あそこ、見て、猫が歩いてる」
私たちが入り込めない向こう側の世界で確かに猫がテケテケと商店街を横切って歩いていた。
「あれ、キジトラだよね。何色に見える?」
私は色を気にして訊いていた。
「キジトラ? 僕には黒っぽい、それでいて真っ黒じゃない猫に見える」
遠目にみたら、全体的にそう見えることもないけれど、あの模様はキジトラにしかみえなかった。
ただ色がはっきりとわからない。
「もしかして、澤田君って視力悪い?」
「普通だと思うけど、普段からめがねかけてないし。でも遠くはぼやけるかな」
なるほどあの距離ならぼやけて、なかなかはっきりと見えないのだろう。
「あの猫、こっちにこないかな。ねえ、猫! おいで、こっちにおいで」
私は叫んでみた。猫は素知らぬ顔でまたどこかの店入り込んだように消えていった。
「ああ、行っちゃった」
私はがっかりしてその場にへたり込んだ。
「もしあの猫がここにきたら、この空間にはいれるような気がしたのに。そしたら穴が開いて風船がはじけるようにこのキューブもなくなるように思えた」
独り言のように呟いた。
その後、思うように行かなかったイラついた感情が沸々と心の中の不満を大きくしていった。
この空間の存在は、澤田君も原因かもしれないけど、もしかしたら猫も原因の一つなのかもしれない。
猫なんか追いかけなければこんなことにならなかった。
こんな状況、絶対に猫と澤田君のせいだ。
私はただ歩いていて猫に気を取られて迷い込んでしまった。
それがトラップで、出れなくなった。
もし澤田君が声を掛けないで私を引き止めなかったら、私はすぐに路地に戻って家に帰っていたはずだ。こんなことにはならなかった。
澤田君をちらりとみれば、黙々とまだこのキューブの中を調べている。
見知らぬ男の子とこんな狭い中に閉じ込められて、これからどうなってしまうのだろう。
そういえば、こんな状況の映画がなかったっけ。
タイトルも確かキューブとかいう……あっ、ホラー映画だ。
怖い映画は観る気がしなくて内容は知らないけど、ホラーだから閉じ込められた人たちは殺されて行くんじゃなかっただろうか。
ふと私は嫌な気持ちになった。
まさか、このキューブがさらに縮んで私たちは最後圧縮されて潰されるんじゃ……そこまで考えた時、ぞっとせずにはいられない。
私はうずくまって怖くて悲観的になってしまった。
涙がじわっと目から染み出てくる。
私の落ち込んだ肩に澤田君の手が触れて、びくっとした。
私たちが入り込めない向こう側の世界で確かに猫がテケテケと商店街を横切って歩いていた。
「あれ、キジトラだよね。何色に見える?」
私は色を気にして訊いていた。
「キジトラ? 僕には黒っぽい、それでいて真っ黒じゃない猫に見える」
遠目にみたら、全体的にそう見えることもないけれど、あの模様はキジトラにしかみえなかった。
ただ色がはっきりとわからない。
「もしかして、澤田君って視力悪い?」
「普通だと思うけど、普段からめがねかけてないし。でも遠くはぼやけるかな」
なるほどあの距離ならぼやけて、なかなかはっきりと見えないのだろう。
「あの猫、こっちにこないかな。ねえ、猫! おいで、こっちにおいで」
私は叫んでみた。猫は素知らぬ顔でまたどこかの店入り込んだように消えていった。
「ああ、行っちゃった」
私はがっかりしてその場にへたり込んだ。
「もしあの猫がここにきたら、この空間にはいれるような気がしたのに。そしたら穴が開いて風船がはじけるようにこのキューブもなくなるように思えた」
独り言のように呟いた。
その後、思うように行かなかったイラついた感情が沸々と心の中の不満を大きくしていった。
この空間の存在は、澤田君も原因かもしれないけど、もしかしたら猫も原因の一つなのかもしれない。
猫なんか追いかけなければこんなことにならなかった。
こんな状況、絶対に猫と澤田君のせいだ。
私はただ歩いていて猫に気を取られて迷い込んでしまった。
それがトラップで、出れなくなった。
もし澤田君が声を掛けないで私を引き止めなかったら、私はすぐに路地に戻って家に帰っていたはずだ。こんなことにはならなかった。
澤田君をちらりとみれば、黙々とまだこのキューブの中を調べている。
見知らぬ男の子とこんな狭い中に閉じ込められて、これからどうなってしまうのだろう。
そういえば、こんな状況の映画がなかったっけ。
タイトルも確かキューブとかいう……あっ、ホラー映画だ。
怖い映画は観る気がしなくて内容は知らないけど、ホラーだから閉じ込められた人たちは殺されて行くんじゃなかっただろうか。
ふと私は嫌な気持ちになった。
まさか、このキューブがさらに縮んで私たちは最後圧縮されて潰されるんじゃ……そこまで考えた時、ぞっとせずにはいられない。
私はうずくまって怖くて悲観的になってしまった。
涙がじわっと目から染み出てくる。
私の落ち込んだ肩に澤田君の手が触れて、びくっとした。