初恋ディストリクト
「栗原さん、大丈夫? どこか具合悪いの?」
「具合が悪いですって!? 当たり前じゃない。こんなところに閉じ込められて正気でいられるわけがないじゃない」
澤田君が優しいことを利用して私は八つ当たってしまう。
「大丈夫だよ、きっと出られるよ」
「どうしてそんな平気でいられるのよ」
泣き叫んでいる私の顔を見て澤田君はにこっと微笑んだ。
「もしかして、栗原さん、なんか悪い方向に考えてない? 例えば、この空間がもっと狭くなって最後に押し潰されるとか」
図星だからうっと喉の奥で声がつまった。
「やっぱり。不安を抱いちゃ全てが悪い方向へ行っちゃうよ。そんなの損するよ」
「だったら、早くここから出してよ」
私の叫びに澤田君の眉が下がって困った表情になった。
でもすぐに気を取り直し、私のネガティブな言葉に流されず微笑む事を忘れない。
「隣に座っていいかな」
隣も何も、私たちは商店街のど真ん中にいる。
見えないキューブの中にいるとはいえ、視界だけは広がってこんな場所の地べたにふたり並んで座るのも変な感じがした。
「好きにしたらいいじゃない」
素直になれない私は、まだ会って半時間も経ってない人に気持ちをぶつけている。
こんなことすべきじゃないと頭ではわかってるんだけど、不安が自分の心を狭くする。
澤田君は私の横に並んで座り、見えない壁に背をもたせかけ両足を伸ばした。
真横でみればそれは不思議な気分だった。
何もないから澤田君が演技でもたれるふりをしているのではと思ってしまう。
澤田君はそのまま動かないでじっと前を向いていた。
その沈黙が私には居心地が悪くて、自分が澤田君に向けた態度に罪悪感を抱いてしまう。
澤田君は全く悪くない。
でも私は一度あげた拳を下ろせないように素直になれなくてひとりでいじけて背中を丸めた。
なんで澤田君はこんなにも私に優しいのだろうと思ったとき、私ははっとした。
「澤田君、私の顔は似てるかもしれないけど、澤田君の初恋の相手ではないから、彼女がこんな態度をとると誤解しないであげてね」
「えっ?」
「だから、初恋の人に私が似ていても、中身は全く違うってことだから。澤田君の初恋の相手の思い出を私は壊したくないの」
澤田君が私に優しいのは持って生まれた穏やかな性格のせいでもあるのだろうけど、元はと言えば、私が『初恋の君』に似てるから感情をごっちゃにさせているのかもしれない。
好きな人に似ている人が目の前にいれば、錯覚を起こすことだってある。
私だって、澤田君が私の憧れている人に似ていたら、こんなにも感情をむき出しにしなかったはずだ。
澤田君は暫く私の言葉の意味を思案していたけど、先ほどよりももっと明るくなったように表情が晴れ晴れとしていた。
「ありがとう」
私に向かって言った。
突然の感謝の気持ちに私は戸惑った。
「お礼言われることじゃないと思うんだけど」
「違うんだ。僕の初恋の人だけど、僕は彼女に関して何も知らないんだ。ただ見かけて、僕が勝手に好きになっただけだった。声を掛ける勇気もなかった。一体どんな女の子なんだろうって、想像はしたけど、僕、女の子とあまり話した事がなくて全然イメージが湧かなかったんだ。だから却って栗原さんと接して、知り合って間もないのに本音を僕にぶちまけてくれたから、感情のぶつかり合いが青春してるなって思えて、そんなに悪くないんだ。頼りない僕に腹を立てながら、 僕を気遣ってくれる栗原さんが嬉しかった」
「嬉しいって気持ちはよくわからないけど……」そんな風に言われたらこっちが益々自己嫌悪になってしまう。
「……ごめん」思わず気持ちが溢れた。
「どうして栗原さんが謝るの?」
「だって、我がままな事を言ったから。澤田君に八つ当たったから」
あまりにも澤田君がピュアすぎて、私は自責の念に駆られた。
「具合が悪いですって!? 当たり前じゃない。こんなところに閉じ込められて正気でいられるわけがないじゃない」
澤田君が優しいことを利用して私は八つ当たってしまう。
「大丈夫だよ、きっと出られるよ」
「どうしてそんな平気でいられるのよ」
泣き叫んでいる私の顔を見て澤田君はにこっと微笑んだ。
「もしかして、栗原さん、なんか悪い方向に考えてない? 例えば、この空間がもっと狭くなって最後に押し潰されるとか」
図星だからうっと喉の奥で声がつまった。
「やっぱり。不安を抱いちゃ全てが悪い方向へ行っちゃうよ。そんなの損するよ」
「だったら、早くここから出してよ」
私の叫びに澤田君の眉が下がって困った表情になった。
でもすぐに気を取り直し、私のネガティブな言葉に流されず微笑む事を忘れない。
「隣に座っていいかな」
隣も何も、私たちは商店街のど真ん中にいる。
見えないキューブの中にいるとはいえ、視界だけは広がってこんな場所の地べたにふたり並んで座るのも変な感じがした。
「好きにしたらいいじゃない」
素直になれない私は、まだ会って半時間も経ってない人に気持ちをぶつけている。
こんなことすべきじゃないと頭ではわかってるんだけど、不安が自分の心を狭くする。
澤田君は私の横に並んで座り、見えない壁に背をもたせかけ両足を伸ばした。
真横でみればそれは不思議な気分だった。
何もないから澤田君が演技でもたれるふりをしているのではと思ってしまう。
澤田君はそのまま動かないでじっと前を向いていた。
その沈黙が私には居心地が悪くて、自分が澤田君に向けた態度に罪悪感を抱いてしまう。
澤田君は全く悪くない。
でも私は一度あげた拳を下ろせないように素直になれなくてひとりでいじけて背中を丸めた。
なんで澤田君はこんなにも私に優しいのだろうと思ったとき、私ははっとした。
「澤田君、私の顔は似てるかもしれないけど、澤田君の初恋の相手ではないから、彼女がこんな態度をとると誤解しないであげてね」
「えっ?」
「だから、初恋の人に私が似ていても、中身は全く違うってことだから。澤田君の初恋の相手の思い出を私は壊したくないの」
澤田君が私に優しいのは持って生まれた穏やかな性格のせいでもあるのだろうけど、元はと言えば、私が『初恋の君』に似てるから感情をごっちゃにさせているのかもしれない。
好きな人に似ている人が目の前にいれば、錯覚を起こすことだってある。
私だって、澤田君が私の憧れている人に似ていたら、こんなにも感情をむき出しにしなかったはずだ。
澤田君は暫く私の言葉の意味を思案していたけど、先ほどよりももっと明るくなったように表情が晴れ晴れとしていた。
「ありがとう」
私に向かって言った。
突然の感謝の気持ちに私は戸惑った。
「お礼言われることじゃないと思うんだけど」
「違うんだ。僕の初恋の人だけど、僕は彼女に関して何も知らないんだ。ただ見かけて、僕が勝手に好きになっただけだった。声を掛ける勇気もなかった。一体どんな女の子なんだろうって、想像はしたけど、僕、女の子とあまり話した事がなくて全然イメージが湧かなかったんだ。だから却って栗原さんと接して、知り合って間もないのに本音を僕にぶちまけてくれたから、感情のぶつかり合いが青春してるなって思えて、そんなに悪くないんだ。頼りない僕に腹を立てながら、 僕を気遣ってくれる栗原さんが嬉しかった」
「嬉しいって気持ちはよくわからないけど……」そんな風に言われたらこっちが益々自己嫌悪になってしまう。
「……ごめん」思わず気持ちが溢れた。
「どうして栗原さんが謝るの?」
「だって、我がままな事を言ったから。澤田君に八つ当たったから」
あまりにも澤田君がピュアすぎて、私は自責の念に駆られた。