初恋ディストリクト
「僕は何も気にしてないよ。謝ることなんてないんだから」
手をひらひらと振りながら、澤田君は慌てて否定している。
どこまでも澤田君は優しい男の子だ。
今時こんな男の子はめずらしいかも。
自分のことよりも人の事を気にする澤田君。
好感度が増していった。
澤田君は全くすれてなくて、こんな純粋に人懐っこくつきまとうのって、何かに似てい る。
存在自体が無条件に好きになってしまうもの。
それは犬だ。
しかも忠実に主人を慕う犬。
そんなのが側にいたら誰だって気に入ってしまう。
頼りない風貌じゃなくて、竹のようにしなやかでそれでいて芯が強い。
澤田君はそういう男の子だ。
「もし澤田君が初恋の人に声をかけていたら、きっとその女の子は澤田君のこと好きになっていたような気がする」
そんな言葉がポロッとでたのも、私自身が澤田君のこと気に入ったからだと思う。
「えっ、そ、そうかな」
澤田君は照れた仕草をしたけど、その瞳はどこか悲しそうであんまり喜んでない。
過去の事をそんな風に言われても、もう遅いだけに虚しさの方が強くなるのかもしれない。
たらればでそんな風に肯定にいったところで褒め言葉でも何でもなかった。
たらればはあくまでも仮定だ。
それに私がいうことでもなかった。
架空のことじゃなくて現実の事を言わなければ。
また変な雰囲気になりたくなくて、私は思い切って言ってしまう。
「だって、私、澤田君のことかなりポイント高いもん。ちょっといいなって正直思ったよ」
自分を引き合いにだしてさっきの言葉を上書きしようとしたけど、自分でも大胆すぎて、なんかかっと体が熱くなって恥ずかしい。
「えっ?」
突然のことに澤田君はきょとんとしている。
鈍感なのか、伝わらないのも悔しくなる。
ここまで言ったからにはあとにはひけなくて、つるっと口からまた言葉が飛び出す。
「あのさ、ここから抜け出したらさ、お祝いに私とデートしない?」
何を言っているんだ、私は。
逆ナンパか。
でも初恋の人に似てるって言われて、どこかで澤田君に好かれてるんじゃないかって自惚れたし、澤田君みたいなタイプは嫌いじゃないし、春だし、今私の中のピンクの蕾が突然開いたような気がした。
澤田君は口を開けて言葉を失っている。
それはどういう意味なの、澤田君。
拒否、それともまだ伝わらないの?
「だから、絶対にここから抜け出して、それで二人で楽しいところに行こうっていってるの。何か楽しみがあったら意地でもここからでようと思うじゃない」
私の顔が熱くなる。
言い訳がましいながらも、精一杯のアプローチ。
こんな台詞を私が言うなんて自分でも信じられない。
それ以上に澤田君は状況が飲めなくてただ私を見つめていた。
「顔は似てても私だとやっぱりダメ?」
モジモジとしながら澤田君と目を合わせた。
「えっ、その、えっと、えーっ!!」
澤田君はどう返事をしていいのか分からず、しどろもどろだ。
そして一度大きく息を吸ってから吐き出すと同時に言った。
「うん。それいい。行きたい。絶対行こう!」
突然誘われたことに最初澤田君は驚きすぎたみたいだ。ちょっと鈍感なのかもしれない。
落ち着いた時、思いっきり喜んでいた。
顔を合わせてお互い笑った。
何だか照れくさい。
先ほどの不安がうそのように払拭されていく。悲観になるよりもずっと気分が楽になった。
ここから絶対に出られる。
今はそう思う事が一番大事なんだ。
隣で澤田君は嬉しそうに顔を綻ばしながら、勢いづいて見えない壁に背中をもたれさせる。
その時「うわーっ」と澤田君がびっくりして後ろに倒れこんでいた。
「澤田君、大丈夫?」
一瞬何が起こったのかわからなかった。
だけど私もまさかと思って手を伸ばすと、さっきまでそこにあった壁がなくなっていることに気がついた。
手をひらひらと振りながら、澤田君は慌てて否定している。
どこまでも澤田君は優しい男の子だ。
今時こんな男の子はめずらしいかも。
自分のことよりも人の事を気にする澤田君。
好感度が増していった。
澤田君は全くすれてなくて、こんな純粋に人懐っこくつきまとうのって、何かに似てい る。
存在自体が無条件に好きになってしまうもの。
それは犬だ。
しかも忠実に主人を慕う犬。
そんなのが側にいたら誰だって気に入ってしまう。
頼りない風貌じゃなくて、竹のようにしなやかでそれでいて芯が強い。
澤田君はそういう男の子だ。
「もし澤田君が初恋の人に声をかけていたら、きっとその女の子は澤田君のこと好きになっていたような気がする」
そんな言葉がポロッとでたのも、私自身が澤田君のこと気に入ったからだと思う。
「えっ、そ、そうかな」
澤田君は照れた仕草をしたけど、その瞳はどこか悲しそうであんまり喜んでない。
過去の事をそんな風に言われても、もう遅いだけに虚しさの方が強くなるのかもしれない。
たらればでそんな風に肯定にいったところで褒め言葉でも何でもなかった。
たらればはあくまでも仮定だ。
それに私がいうことでもなかった。
架空のことじゃなくて現実の事を言わなければ。
また変な雰囲気になりたくなくて、私は思い切って言ってしまう。
「だって、私、澤田君のことかなりポイント高いもん。ちょっといいなって正直思ったよ」
自分を引き合いにだしてさっきの言葉を上書きしようとしたけど、自分でも大胆すぎて、なんかかっと体が熱くなって恥ずかしい。
「えっ?」
突然のことに澤田君はきょとんとしている。
鈍感なのか、伝わらないのも悔しくなる。
ここまで言ったからにはあとにはひけなくて、つるっと口からまた言葉が飛び出す。
「あのさ、ここから抜け出したらさ、お祝いに私とデートしない?」
何を言っているんだ、私は。
逆ナンパか。
でも初恋の人に似てるって言われて、どこかで澤田君に好かれてるんじゃないかって自惚れたし、澤田君みたいなタイプは嫌いじゃないし、春だし、今私の中のピンクの蕾が突然開いたような気がした。
澤田君は口を開けて言葉を失っている。
それはどういう意味なの、澤田君。
拒否、それともまだ伝わらないの?
「だから、絶対にここから抜け出して、それで二人で楽しいところに行こうっていってるの。何か楽しみがあったら意地でもここからでようと思うじゃない」
私の顔が熱くなる。
言い訳がましいながらも、精一杯のアプローチ。
こんな台詞を私が言うなんて自分でも信じられない。
それ以上に澤田君は状況が飲めなくてただ私を見つめていた。
「顔は似てても私だとやっぱりダメ?」
モジモジとしながら澤田君と目を合わせた。
「えっ、その、えっと、えーっ!!」
澤田君はどう返事をしていいのか分からず、しどろもどろだ。
そして一度大きく息を吸ってから吐き出すと同時に言った。
「うん。それいい。行きたい。絶対行こう!」
突然誘われたことに最初澤田君は驚きすぎたみたいだ。ちょっと鈍感なのかもしれない。
落ち着いた時、思いっきり喜んでいた。
顔を合わせてお互い笑った。
何だか照れくさい。
先ほどの不安がうそのように払拭されていく。悲観になるよりもずっと気分が楽になった。
ここから絶対に出られる。
今はそう思う事が一番大事なんだ。
隣で澤田君は嬉しそうに顔を綻ばしながら、勢いづいて見えない壁に背中をもたれさせる。
その時「うわーっ」と澤田君がびっくりして後ろに倒れこんでいた。
「澤田君、大丈夫?」
一瞬何が起こったのかわからなかった。
だけど私もまさかと思って手を伸ばすと、さっきまでそこにあった壁がなくなっていることに気がついた。