初恋ディストリクト
「でも、まだ人が現れてない。どんなに広がったって違う空間に閉じ込められたままじゃないの」
「だけどさ、これっていい兆候じゃないかな。だってさ、僕たちが希望を持った時、急に壁が動いたんだよ。僕たちのここから脱出したい気持ちが高まったからそうなったと考えられないかな?」
澤田君の言いたい事はわかる。でも私は半信半疑だった。
「ここから出たい気持ちは閉じ込められていると分かってからずっと変わらないし、苛立つほどそれは大きく持ってるじゃない。でも見えない壁はそんなすぐに変化しなかった」
「ううん、さっきの気持ちはそれ以上のものがあったよ。何かポジティブになったじゃないか。その、僕たちが同じ思いに明るく希望をもったというのか、僕たちその時、ぐっと体に熱いものが流れたような感情があったよね」
ぐっとくる熱いもの。
確かに顔を熱くして自分らしからぬ言葉を澤田君には伝えたけど、それはすなわち私が澤田君に好意をもった感情だ。
それが本当ならもう一度試してみようじゃないの。
「デート……」
「何?」
「だから、私はここを出て澤田君とデートしたい!」
「えっ? 一体どうしたの、急に叫んで」
澤田君は戸惑っていた。
「ほら、どう、またそっちの空間が広がった?」
「はい?」
澤田君は私の意図がまだわかってない。
説明するのが面倒くさくて、私は食器屋から向こう側を確かめる。
澤田君の仮説どおりなら、広がってるはず。
でもそれはあえなく撃沈した。
見えない壁は全く動いてなかった。
「効果ないじゃない。やっぱり偶然だったんだ」
「いや、偶然じゃない。きっと何か僕たちのしたことが影響したんだよ。あの時、僕はわくわくしてすごく嬉しかったんだ。それで壁がまだあると思って後ろにもたれたら、触れたと同時に急に消えたんだよ」
「でも、私だって今、気持ちをぶつけたけど、上手く行かなかった。口から出た言葉は本当にそう思っての本心なんだよ」
「そ、そっか。それは嬉しいな」
向こう側にいる澤田君はまた照れた。
手持ちぶたさに壁に手をついたときだった。
またがくっと体がバランスを崩していた。
体勢を整えようとおっとっとっと、今にもこけそうだ。
それをやっとの思いで持ちこたえて私に振り返った。
「壁がまた消えた」
「うそっ」
私も目の前の壁にふれようと手を伸ばす。さっきまであった壁がもうそこにはなかった。
「こっちも消えた」
確認のため、先へと足を運ぶ。
食器屋の隣は無機質な白い壁が続いている。
ガラス張りのドアが中央にあって接骨院とかかれていた。
反対側の精肉店の隣はシャッターが閉まっていた。
進めるところまで進んだら、接骨院の建物の終わりに見えない壁を確認した。
そこから辿って向かい側に行けば、シャッターが閉 まっている店の端に続いた。
それは店舗ごとにこの空間は確実に広がっている。
私は澤田君を振り返る。これって、やっぱり澤田君の感情が影響しているんじゃ ないの?
「ちょっと澤田君」
澤田君から遠ざかってしまったので、私は澤田君に駆け寄る。
澤田君に近づけば、彼は眉間に皺を寄せて混乱していた。
「だけどさ、これっていい兆候じゃないかな。だってさ、僕たちが希望を持った時、急に壁が動いたんだよ。僕たちのここから脱出したい気持ちが高まったからそうなったと考えられないかな?」
澤田君の言いたい事はわかる。でも私は半信半疑だった。
「ここから出たい気持ちは閉じ込められていると分かってからずっと変わらないし、苛立つほどそれは大きく持ってるじゃない。でも見えない壁はそんなすぐに変化しなかった」
「ううん、さっきの気持ちはそれ以上のものがあったよ。何かポジティブになったじゃないか。その、僕たちが同じ思いに明るく希望をもったというのか、僕たちその時、ぐっと体に熱いものが流れたような感情があったよね」
ぐっとくる熱いもの。
確かに顔を熱くして自分らしからぬ言葉を澤田君には伝えたけど、それはすなわち私が澤田君に好意をもった感情だ。
それが本当ならもう一度試してみようじゃないの。
「デート……」
「何?」
「だから、私はここを出て澤田君とデートしたい!」
「えっ? 一体どうしたの、急に叫んで」
澤田君は戸惑っていた。
「ほら、どう、またそっちの空間が広がった?」
「はい?」
澤田君は私の意図がまだわかってない。
説明するのが面倒くさくて、私は食器屋から向こう側を確かめる。
澤田君の仮説どおりなら、広がってるはず。
でもそれはあえなく撃沈した。
見えない壁は全く動いてなかった。
「効果ないじゃない。やっぱり偶然だったんだ」
「いや、偶然じゃない。きっと何か僕たちのしたことが影響したんだよ。あの時、僕はわくわくしてすごく嬉しかったんだ。それで壁がまだあると思って後ろにもたれたら、触れたと同時に急に消えたんだよ」
「でも、私だって今、気持ちをぶつけたけど、上手く行かなかった。口から出た言葉は本当にそう思っての本心なんだよ」
「そ、そっか。それは嬉しいな」
向こう側にいる澤田君はまた照れた。
手持ちぶたさに壁に手をついたときだった。
またがくっと体がバランスを崩していた。
体勢を整えようとおっとっとっと、今にもこけそうだ。
それをやっとの思いで持ちこたえて私に振り返った。
「壁がまた消えた」
「うそっ」
私も目の前の壁にふれようと手を伸ばす。さっきまであった壁がもうそこにはなかった。
「こっちも消えた」
確認のため、先へと足を運ぶ。
食器屋の隣は無機質な白い壁が続いている。
ガラス張りのドアが中央にあって接骨院とかかれていた。
反対側の精肉店の隣はシャッターが閉まっていた。
進めるところまで進んだら、接骨院の建物の終わりに見えない壁を確認した。
そこから辿って向かい側に行けば、シャッターが閉 まっている店の端に続いた。
それは店舗ごとにこの空間は確実に広がっている。
私は澤田君を振り返る。これって、やっぱり澤田君の感情が影響しているんじゃ ないの?
「ちょっと澤田君」
澤田君から遠ざかってしまったので、私は澤田君に駆け寄る。
澤田君に近づけば、彼は眉間に皺を寄せて混乱していた。