初恋ディストリクト
第一章 猫を追いかけてからの出会い
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それは世間で騒がれている新型コロナのせいで春休み前に休校となり、二〇二〇年の新学期がいつから始まるのかわからなくなった高校二年生になる前の春のことだ。
見えないものに怯える不穏な日々。
でも周りを見れば普段と変わらない景色が続く。
空は晴れ晴れとして柔らかな雲がゆったりと流れて、そこにある自然は何も変わらなかった。
ぽかぽかとした気温。
春の色が濃くなってほんわかするはずだった。なのに、訳もわからず不安を植えつけられてしまった。
手を洗え、消毒しろと、人の集まるところにいくな、人との距離をとれ、と指図される事が多くなった。
こんなのって窮屈だ。その一方でまだ今の状況を真剣に受け止めていない自分もいる。
春はマスクをする人が多いとは思っていたけど、それは花粉症が主な理由だった。
だけど今、普通の人もマスクを求めている。
そしてどこも売り切れて探すのが困難だ。
「智ちゃん、悪いんだけどKストアでマスク入荷する予定なんだって。ちょっと買ってきて」
「やだ、お母さんが行けばいいじゃない」
「私はもうちょっと先のドラッグストアに行ってくるからさ、こういうのは分散して買いに行けばいいでしょ。ねえ、福ちゃんもそう思うよね」
母は足元で餌をねだっている猫に同意を求めていた。
あっさりと言ってくれるけど、本当はマスクが売ってる保障はない。
手に入ればそれだけでラッキーなことになる。
家には多少のマスクの予備があっても、それだけでは十分じゃないとみんな同じ考えを持っていて、世間はマスクの取り合いになっていた。
なんでこんなことになったのだろう。
でも風邪なんかで死にたくないし、マスクで被害が抑えられるのならすがるしかない。
お母さんからお金を受け取り、私はピンクのパーカーを手に取って玄関に向かった。
少し大きめでだぼっとしたパーカー。すっぽりと体を包んでくれる私のお気に入り。
白いスキニーパンツとよく合う。
外は日差しがあってぽかぽかしているけど、風が冷たくて日陰になるとまだ寒く感じる。
パーカーを頭から被ってもごもごと袖を通しながら外に出た。
それは世間で騒がれている新型コロナのせいで春休み前に休校となり、二〇二〇年の新学期がいつから始まるのかわからなくなった高校二年生になる前の春のことだ。
見えないものに怯える不穏な日々。
でも周りを見れば普段と変わらない景色が続く。
空は晴れ晴れとして柔らかな雲がゆったりと流れて、そこにある自然は何も変わらなかった。
ぽかぽかとした気温。
春の色が濃くなってほんわかするはずだった。なのに、訳もわからず不安を植えつけられてしまった。
手を洗え、消毒しろと、人の集まるところにいくな、人との距離をとれ、と指図される事が多くなった。
こんなのって窮屈だ。その一方でまだ今の状況を真剣に受け止めていない自分もいる。
春はマスクをする人が多いとは思っていたけど、それは花粉症が主な理由だった。
だけど今、普通の人もマスクを求めている。
そしてどこも売り切れて探すのが困難だ。
「智ちゃん、悪いんだけどKストアでマスク入荷する予定なんだって。ちょっと買ってきて」
「やだ、お母さんが行けばいいじゃない」
「私はもうちょっと先のドラッグストアに行ってくるからさ、こういうのは分散して買いに行けばいいでしょ。ねえ、福ちゃんもそう思うよね」
母は足元で餌をねだっている猫に同意を求めていた。
あっさりと言ってくれるけど、本当はマスクが売ってる保障はない。
手に入ればそれだけでラッキーなことになる。
家には多少のマスクの予備があっても、それだけでは十分じゃないとみんな同じ考えを持っていて、世間はマスクの取り合いになっていた。
なんでこんなことになったのだろう。
でも風邪なんかで死にたくないし、マスクで被害が抑えられるのならすがるしかない。
お母さんからお金を受け取り、私はピンクのパーカーを手に取って玄関に向かった。
少し大きめでだぼっとしたパーカー。すっぽりと体を包んでくれる私のお気に入り。
白いスキニーパンツとよく合う。
外は日差しがあってぽかぽかしているけど、風が冷たくて日陰になるとまだ寒く感じる。
パーカーを頭から被ってもごもごと袖を通しながら外に出た。