初恋ディストリクト
「僕たちはもっと自由でなければならないし、押し付けに屈服なんて簡単にしたくない。しっかりとどんな時でも生きなくっちゃって僕は思う」
「こんなの納得できないけど、今の時代は試練の時なのかな」
「試練の時か。苦しいばかりも辛いけど、それはいつまで続くんだろうね」
澤田君の声にどことなく陰りが出ているように思えた。
私は気になって様子を見れば、澤田君は俯いてじっと膝あたりを真剣に見つめていた。
澤田君は人を疑う事を知らないような素直さがあって、真面目だけど、時々不器用な面もあるような気がする。
いつも朗らかとして前向きに見えるけども、もしかしたらそれって無理にそうやって踏ん張っているんじゃないだろうか。
優しいだけの彼じゃない、秘めたものが時々見え隠れする。
もう少し、澤田君の内面を見てみたいと思ったとき、私は自分語りを始めてしまった。
「あのね、私さ、中学の時がすごく試練の時だったんだ。いつまでこんな状態が続くのだろうって、すごく苦しかった。でもやっぱり終わりはあったんだ。だから、絶対この騒ぎも必ず終わる時が来るって思う」
「栗原さんは強いんだ」
「強くなんかないよ。ただ耐えて流されていただけだと思う。そしたら自然と行くべきところに着いたっていうのか、苦しいことから離れられたっていうのか」
「栗原さんはとてもしっかりしているように見える」
「ちょっと図太いところはあるかもしれない。本心を見せずに様子を見る癖はついてて、嫌なものは心の奥深くで罵るの。隠れてこそこそする陰険なんだと思う」
「自分のことそんなにネガティブに言わなくても。栗原さんはちゃんと正直に僕と向き合って喋ってるじゃない。全然陰険じゃないよ」
「それは澤田君がとてもいい人だからだよ。最初は、ちょっとアレって思ったけど、でも今は澤田君に頼りきりだし、一緒にいるとすごく安心する」
澤田君のジャケットの裾を握ってるだけでも落ち着く。
「そっかな」
澤田君は褒められることに慣れてないようだ。
顔は恥ずかしそうに笑って、身をすくめて畏まっている。
「澤田君自身は自分の事どういう風に思ってる」
「僕が僕をどう思うかって?」
澤田君はうーんと唸りながら上を見て考え込んだ。
「そんな深刻に詳しく聞こうとしてないから。簡単でいいから」
「うーん……」
澤田君は苦しみながら考えた末、やっと口を開いた。
「カジモドさん」
「ん? 梶本さん。誰それ?」
「えっと、カジモトじゃなくて、トには濁音がついて、カジモドっていうの」
「はっ? カジモド???」
何のことかまったくわからない。
「あれ、知らない? ディズニーアニメの『ノートルダムの鐘』。あの主人公がカジモドさん」
言われて見ればなんとなく思い出してきた。
「もしかして、あのせむしのキャラクター?」
「そうそう。観たことある?」
「子供の頃、観たことあるけど、あまり話は覚えてないな」
絵柄もあまり好きじゃないし、話もシリアスぽくて今でも好みじゃない。
「でもキャラクターはすごい強烈だったでしょ」
「それは、ディズニーキャラクターにしてはかわいくないよね。でもなんでカジモドの話なの?」
「だから、僕はカジモドさんみたいになりたくて、そうだったらいいなって、それでその名前が出た」
なんだかよくわからない。でもあのキャラクターは自分が醜いと分かってるから恐縮して隠れて生きていたように思う。
外見とは対象的に内面は優しく、心がとてもきれいなキャラだった。
澤田君とちょっと被るような性格ではあるけど、でもあんなセムシのキャラクターになりたいって、感覚がなんか違う。
「好きなの、その映画?」
「うん。僕の母がいうにはね、小さいときにそのDVDばかり観てたんだって。なんで自分でもそんなに好きだったのかわからないんだけど、時が経ってからまた観たらさ、カジモドさんに励まされたような気がしたんだ」
「励まされる要素なんてあったっけ?」
私は首を傾げた。
「こんなの納得できないけど、今の時代は試練の時なのかな」
「試練の時か。苦しいばかりも辛いけど、それはいつまで続くんだろうね」
澤田君の声にどことなく陰りが出ているように思えた。
私は気になって様子を見れば、澤田君は俯いてじっと膝あたりを真剣に見つめていた。
澤田君は人を疑う事を知らないような素直さがあって、真面目だけど、時々不器用な面もあるような気がする。
いつも朗らかとして前向きに見えるけども、もしかしたらそれって無理にそうやって踏ん張っているんじゃないだろうか。
優しいだけの彼じゃない、秘めたものが時々見え隠れする。
もう少し、澤田君の内面を見てみたいと思ったとき、私は自分語りを始めてしまった。
「あのね、私さ、中学の時がすごく試練の時だったんだ。いつまでこんな状態が続くのだろうって、すごく苦しかった。でもやっぱり終わりはあったんだ。だから、絶対この騒ぎも必ず終わる時が来るって思う」
「栗原さんは強いんだ」
「強くなんかないよ。ただ耐えて流されていただけだと思う。そしたら自然と行くべきところに着いたっていうのか、苦しいことから離れられたっていうのか」
「栗原さんはとてもしっかりしているように見える」
「ちょっと図太いところはあるかもしれない。本心を見せずに様子を見る癖はついてて、嫌なものは心の奥深くで罵るの。隠れてこそこそする陰険なんだと思う」
「自分のことそんなにネガティブに言わなくても。栗原さんはちゃんと正直に僕と向き合って喋ってるじゃない。全然陰険じゃないよ」
「それは澤田君がとてもいい人だからだよ。最初は、ちょっとアレって思ったけど、でも今は澤田君に頼りきりだし、一緒にいるとすごく安心する」
澤田君のジャケットの裾を握ってるだけでも落ち着く。
「そっかな」
澤田君は褒められることに慣れてないようだ。
顔は恥ずかしそうに笑って、身をすくめて畏まっている。
「澤田君自身は自分の事どういう風に思ってる」
「僕が僕をどう思うかって?」
澤田君はうーんと唸りながら上を見て考え込んだ。
「そんな深刻に詳しく聞こうとしてないから。簡単でいいから」
「うーん……」
澤田君は苦しみながら考えた末、やっと口を開いた。
「カジモドさん」
「ん? 梶本さん。誰それ?」
「えっと、カジモトじゃなくて、トには濁音がついて、カジモドっていうの」
「はっ? カジモド???」
何のことかまったくわからない。
「あれ、知らない? ディズニーアニメの『ノートルダムの鐘』。あの主人公がカジモドさん」
言われて見ればなんとなく思い出してきた。
「もしかして、あのせむしのキャラクター?」
「そうそう。観たことある?」
「子供の頃、観たことあるけど、あまり話は覚えてないな」
絵柄もあまり好きじゃないし、話もシリアスぽくて今でも好みじゃない。
「でもキャラクターはすごい強烈だったでしょ」
「それは、ディズニーキャラクターにしてはかわいくないよね。でもなんでカジモドの話なの?」
「だから、僕はカジモドさんみたいになりたくて、そうだったらいいなって、それでその名前が出た」
なんだかよくわからない。でもあのキャラクターは自分が醜いと分かってるから恐縮して隠れて生きていたように思う。
外見とは対象的に内面は優しく、心がとてもきれいなキャラだった。
澤田君とちょっと被るような性格ではあるけど、でもあんなセムシのキャラクターになりたいって、感覚がなんか違う。
「好きなの、その映画?」
「うん。僕の母がいうにはね、小さいときにそのDVDばかり観てたんだって。なんで自分でもそんなに好きだったのかわからないんだけど、時が経ってからまた観たらさ、カジモドさんに励まされたような気がしたんだ」
「励まされる要素なんてあったっけ?」
私は首を傾げた。