初恋ディストリクト
空を見上げればどんよりとした曇り空だ。
そろそろ梅雨の季節でもある。それにふさわしく、ある家の玄関先で紫陽花が咲き始めていていた。
心は荒んでても素直にきれいだなって思った。
この町に慣れようとあちこち歩いているけれど、すぐ家に戻りたくない気持ちのいいわけだ。
突然変わってしまった身の回り。
父と母の相容れない二人の間の 事情が僕の人生を左右する。
親権は母が取ったけど、父が取ったとしても僕は母と暮らしていた。
マザコン気味なところもあるけど、やはり離婚した後の母のダメージは父よりも強いと思ったし、僕は母の力になりたいと思った。
なぜこうなってしまったのかと考えたけど、そこはいくら血の繋がった親でも、与り知らないところで、息子の僕にはどうすることもできない問題があったとしか言えない。
僕のために親たちが我慢して暮らしてほしいなんていってそうなったとしても、虚しさはいつも付きまとうだろう。
頭では割り切って大人になるべきだと強がっているのだけども、心の中ではもやもやとしてしまう。
両親の不仲が分かるまでは、普通に楽しく学校生活を送っていた。
なよなよしている僕だけど、それを個性と受け止めて仲良くしてくれる友達にも恵まれた。
クラスのみんなもいい人たちが多くて、いつも和気藹々としているような学校だった。
中学受験は大変だったけど、入ったあとはこのまま高校も安泰だってそう思っていた。
それがあっさりと崩れた中学二年の三学期。
自分が見ていたものが色あせて、急に心が寒々としていった。
「隼八、どうした、元気ないぞ」
ある日、登校して席に座ると、後ろから肩をポンと叩かれた。
僕と仲がいい倉方哲だ。
面倒見がいいやつで、クラスでもリーダーシップをとって、みんなからも慕われている。
家もかなりの金持ちだと噂されていた。
「まあな。そんな日もあるんだ。ハハハ」
僕はなんでもないと装う。
「悩みがあるならいつでも聞くぞ」
「悩んでるって程でもないんだ」
その言葉の裏で嘘つけと自分を罵った。
「そっか。どうせ隼八のことだ、夜更かしして眠たいとか、朝飯食えなかったとか、そんなことだろ」
この時僕は、正直イラッとした。でもそれを隠してヘラヘラと作り笑顔で誤魔化す。
この時点で哲とは違う世界にいるんだと思ってしまった。
哲と仲いい奴はいっぱいいるし、僕はその中でも特に親しい関係だと思っていたけど、僕の心の変化が不条理に哲を遠ざけていく。
哲は絵に描いたようなクラスの中心人物で人望も厚く、性格もいいから人気者だ。
それが八方美人的なものに見えてしまい、突然鬱陶しくなった。
哲には関係ないのに、自分の不幸な状況が全てを歪ませてしまった。
それでも僕はいつも通りの僕を演じる。
両親が離婚したことは誰にも言ってないし、僕の心が荒んでいるなんてことも誰も気づいてないと思う。
ひたすら全てを覆い隠し、残りの中学生活を無事に終えることだけを願っていた。
そろそろ梅雨の季節でもある。それにふさわしく、ある家の玄関先で紫陽花が咲き始めていていた。
心は荒んでても素直にきれいだなって思った。
この町に慣れようとあちこち歩いているけれど、すぐ家に戻りたくない気持ちのいいわけだ。
突然変わってしまった身の回り。
父と母の相容れない二人の間の 事情が僕の人生を左右する。
親権は母が取ったけど、父が取ったとしても僕は母と暮らしていた。
マザコン気味なところもあるけど、やはり離婚した後の母のダメージは父よりも強いと思ったし、僕は母の力になりたいと思った。
なぜこうなってしまったのかと考えたけど、そこはいくら血の繋がった親でも、与り知らないところで、息子の僕にはどうすることもできない問題があったとしか言えない。
僕のために親たちが我慢して暮らしてほしいなんていってそうなったとしても、虚しさはいつも付きまとうだろう。
頭では割り切って大人になるべきだと強がっているのだけども、心の中ではもやもやとしてしまう。
両親の不仲が分かるまでは、普通に楽しく学校生活を送っていた。
なよなよしている僕だけど、それを個性と受け止めて仲良くしてくれる友達にも恵まれた。
クラスのみんなもいい人たちが多くて、いつも和気藹々としているような学校だった。
中学受験は大変だったけど、入ったあとはこのまま高校も安泰だってそう思っていた。
それがあっさりと崩れた中学二年の三学期。
自分が見ていたものが色あせて、急に心が寒々としていった。
「隼八、どうした、元気ないぞ」
ある日、登校して席に座ると、後ろから肩をポンと叩かれた。
僕と仲がいい倉方哲だ。
面倒見がいいやつで、クラスでもリーダーシップをとって、みんなからも慕われている。
家もかなりの金持ちだと噂されていた。
「まあな。そんな日もあるんだ。ハハハ」
僕はなんでもないと装う。
「悩みがあるならいつでも聞くぞ」
「悩んでるって程でもないんだ」
その言葉の裏で嘘つけと自分を罵った。
「そっか。どうせ隼八のことだ、夜更かしして眠たいとか、朝飯食えなかったとか、そんなことだろ」
この時僕は、正直イラッとした。でもそれを隠してヘラヘラと作り笑顔で誤魔化す。
この時点で哲とは違う世界にいるんだと思ってしまった。
哲と仲いい奴はいっぱいいるし、僕はその中でも特に親しい関係だと思っていたけど、僕の心の変化が不条理に哲を遠ざけていく。
哲は絵に描いたようなクラスの中心人物で人望も厚く、性格もいいから人気者だ。
それが八方美人的なものに見えてしまい、突然鬱陶しくなった。
哲には関係ないのに、自分の不幸な状況が全てを歪ませてしまった。
それでも僕はいつも通りの僕を演じる。
両親が離婚したことは誰にも言ってないし、僕の心が荒んでいるなんてことも誰も気づいてないと思う。
ひたすら全てを覆い隠し、残りの中学生活を無事に終えることだけを願っていた。