初恋ディストリクト
 すでに姿は見えなくなったけど、勘を頼りに僕は彼女の通学路を推測する。

 これは運命の出会い。

 人を避けていた僕が、興味を持ったのは彼女に何かをピピピと感じたからだ。

 彼女と今日出会ったのが僕にとっての必然性なら、僕は彼女とどこかで何かの縁があるに違いない。

 説明がつかない感覚を体で感じ取った。

 その時、目の前の景色が二重に見えたかと思うと、波打つようにまた一つになったように見えた。

 体から僕の波長が波紋のように広がってそれにまるで反応したかのようだった。

 直感が目に見えて、不思議な力をやどったようだ。

 こっちを進めばきっと彼女がいる。そう強く思ったらほんとにそうなった。

「あっ、いた」

 僕は彼女を見つけられた。

 その瞬間、ドキドキと心臓が高鳴った。

 車が激しく通る道で信号待ちをしていた彼女。

 人通りもあるし、道路を渡ろうとしている人にまぎれて僕が近づいても不自然じゃない。

 でもそのあとをどうすればいいのだろう。

 いきなり声なんて掛けられないし、掛けたとしてもその後何を話していいのかわからない。

 彼女の後姿を見ながらドキドキとしていた。

 そして信号が青に変わり、彼女は堂々と横断歩道を渡っていく。

 彼女に知られず、後をつけようと、一瞬僕の足も同じ方向を向いたけど、僕は中途半端に足を上げただけでやめてしまった。

 声を掛ける勇気もないのに、後をつけたらただのストーカーだ。

 そんな行為をしているのが彼女にばれたら、もう弁解の余地がない。

 なんで彼女は猫に餌を与えている時、鞄から他のものを落とさなかったんだ。

 落し物があったら、どんなによかったか。

 さりげなく追いかけて、これ落としたよって声を掛けられたのに。

 そんな事を考えながら、信号の青が点滅し赤に変わっていた。

 彼女は僕の存在を知らず、道路を渡りきって先を歩いていく。

 次また会えるだろうか。

 見かけても声をかける事は僕には出来そうもない。
 でもまた彼女に会いたい。

 そう思ったとき、僕は今からその口実を作ろうと猫の餌を買いに行く。

 あの白と黒の猫に餌をあげたら、あの女の子の方から僕に声を掛けてくれるチャンスがあるかもしれない。

 猫がきっかけで仲良くなれるのではないだろうか。

 いい事を思いついて顔がにやけて、それでいて上手く行くと思うと胸が高鳴って心地いい。

 どんよりとしていたはずの曇り空が、この時西の方で切れ目が出て光が差し込んだ。

 それが尾を引いて光の筋が見えた。
 なんて神々しい。

 大げさだけど、僕の心の中を見ているようでもあった。

 これってもしかして初恋なのかな?

 久しぶりに、自分におかしくなって笑いそうになる。

 それをぐっと堪えてていると肩が震えた。

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