初恋ディストリクト
「家に帰るときにすれ違って一目惚れしたけど、声が掛けられなくて、それでたまたま彼女が猫に餌を与えていたのを見て、自分もその猫に餌を与えて、それで接点を作ろうとしたってことか?」
僕が説明した事を確認するように哲がまとめた。
「そうそう」
「ふーん。それでどこですれ違ったんだ」
「それは」
うっかりと引っ越した町の名前を言ってしまった。
「なんでそんなところにいたんだ?」
哲が疑問を持ったことで、僕はその時重大なミスをしたことに気がついてしまった。
「いや、そのちょっと用事があって」
「なんの用事があったんだ。お前、家に帰るときって言っただろう」
「だから、その、買い物だよ。それが終わって家に帰ろうとしたんだよ」
「あんなところ、何も店なんてないぞ。何を買いにいったんだ」
哲は目を細くして違和感を覚えていた。
「その、買いにいったというのか、頼まれて行ったんだけど、結局は店を見つけられなくてさ、よくわからないままに終わったんだ」
少し苦しい。
「あのさ、隼八、俺に何か隠しているだろ」
ぎろっと睨んでくる哲の目に僕はビクッとしてしまった。
哲は信頼する奴にはいつも親身になって接するから、そこに誤魔化しや嘘があるのを非常に嫌う。
泳いでいる僕の目を見て哲は脅すように凄みを利かせた。
「いいから話せ」
僕は観念して正直に家庭の問題を哲に話した。そのせいで引っ越したことを明かした。
「バカ野郎。なんでそんな大事なことを俺に相談しないんだ」
哲は怒りだした。僕はひぃっと身を竦ませてしまう。
「だって、そんなこと誰にも言えないし、僕だってどう受け止めていいかわからなかった。ただ、こんなことになるのが嫌で嫌で、それを口にしてしまったら、もっと惨めになると思った。それに高校はみんなと進学できないから、それを言うのも辛かった」
「それでひとりで抱え込んで、俺の前ではヘラヘラと自分を偽って過ごしてたのか。通りでなんかおかしかったはずだ」
哲は僕の変化には気がついていた。
でも僕が軽く促すとそれで過ぎ去っていった。
僕は怒っている哲をチラッと上目使いで見れば、哲は悔しそうに顔を歪ませていた。
そんなに黙っていた事が腹立たしかったのだろうか。
すると哲は急に肩の力を抜いて、息を漏らした。
僕が説明した事を確認するように哲がまとめた。
「そうそう」
「ふーん。それでどこですれ違ったんだ」
「それは」
うっかりと引っ越した町の名前を言ってしまった。
「なんでそんなところにいたんだ?」
哲が疑問を持ったことで、僕はその時重大なミスをしたことに気がついてしまった。
「いや、そのちょっと用事があって」
「なんの用事があったんだ。お前、家に帰るときって言っただろう」
「だから、その、買い物だよ。それが終わって家に帰ろうとしたんだよ」
「あんなところ、何も店なんてないぞ。何を買いにいったんだ」
哲は目を細くして違和感を覚えていた。
「その、買いにいったというのか、頼まれて行ったんだけど、結局は店を見つけられなくてさ、よくわからないままに終わったんだ」
少し苦しい。
「あのさ、隼八、俺に何か隠しているだろ」
ぎろっと睨んでくる哲の目に僕はビクッとしてしまった。
哲は信頼する奴にはいつも親身になって接するから、そこに誤魔化しや嘘があるのを非常に嫌う。
泳いでいる僕の目を見て哲は脅すように凄みを利かせた。
「いいから話せ」
僕は観念して正直に家庭の問題を哲に話した。そのせいで引っ越したことを明かした。
「バカ野郎。なんでそんな大事なことを俺に相談しないんだ」
哲は怒りだした。僕はひぃっと身を竦ませてしまう。
「だって、そんなこと誰にも言えないし、僕だってどう受け止めていいかわからなかった。ただ、こんなことになるのが嫌で嫌で、それを口にしてしまったら、もっと惨めになると思った。それに高校はみんなと進学できないから、それを言うのも辛かった」
「それでひとりで抱え込んで、俺の前ではヘラヘラと自分を偽って過ごしてたのか。通りでなんかおかしかったはずだ」
哲は僕の変化には気がついていた。
でも僕が軽く促すとそれで過ぎ去っていった。
僕は怒っている哲をチラッと上目使いで見れば、哲は悔しそうに顔を歪ませていた。
そんなに黙っていた事が腹立たしかったのだろうか。
すると哲は急に肩の力を抜いて、息を漏らした。