初恋ディストリクト
「隼八、ごめんな」
「えっ、なんで哲が謝るの?」

「俺、隼八のおかしいところに気がついてたのに、真剣に受け止めなくて、隼八のことだからって、つい軽くあしらってしまった」

 僕は黙って訊いていた。その時僕は、確かに気持ち的にいっぱいいっぱいで哲にイラッとしたのは事実だ。

 あの時の事を思い出すと、僕も面映い。

 何か僕が言おうとすると、また哲が言葉を続けた。

「正直に話してくれなかったことに失望したけど、それは俺が勝手に隼八がこうあるべきって決めてかかったから、そんな風に感じてしまったんだと思う。俺の方が隼八に話しさせ難い雰囲気を作ってたのかもしれない」

 僕は今気がついた。

 哲は僕を心底助けたいと思ってくれたんだ。

 哲は僕に心を開いてくれていたけど、僕はどこかでまだ遠慮していて、哲に黙ってついていっていただけだった。

「ううん、僕は話すべきだったんだ。ひとりで抱え込んでいた時、確かに精神的に参って全てが嫌になってしまった。僕は自分自身にも本音をさらけ出せず、ひたすら我慢してばかりで臆病だった」

「そうなんだよ。隼八の性格からしたら、すぐに遠慮して自分を押さえ込むもんな。それを分かってたのに、俺もそれに慣れてしまっていた。そこが隼八の優しいところでもあるけど、それは悪い意味でいえば、正直になれないってことだもんな」

「よく見てるよね、僕のこと」

「当たり前だろ、親友なんだから」

 哲から出たその言葉が胸に沁みてくる。

 僕は体の力がぬけたような、それでいて背負っていた重いものが消えていくような安心感を得ていた。

「哲、ありがと」

「何を今更、でも力になれることがあったら、頼ってくれて構わないぜ。俺もなんかショックだな。三年間ずっと同じクラスでさ、高等部もまた一緒に行けると思ったのに。高校卒業までの学費の援助はなんとか父親に出してもらえないのか?」

「無理を言えば出してもらえたと思うんだ。だけど、この先何があるかわからないから、節約して、その分生活費としてもらうほうがいいと思ったんだ」

「そういうところ、現実的だな。でも隼八は正しいと思う」

 悩んだ末に決めたことだから、哲に肯定されて自分自身もこれでよかったんだと思えて嬉しい。

「哲に聞いてもらってよかったよ。なんか頑張れそうだ」

「あまり無理するなよ。それで頑張るといったら、その好きになった女の子の対策だけど、手伝ってやろうか」

「えっ、どうやって」
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