初恋ディストリクト
哲に相談したその週末。
僕は哲の誘いで、ホテルで催しされるパーティに招待された。
パーティに着ていく服なんてもってないから、その話を持ち出された時、僕は遠慮してしまう。
「お互い制服でいこうぜ。ブレザーだし、ネクタイしてるし、学生だから制服が正装だ。とにかく俺だって、そんなパーティに行くのはあんまり気乗りしないんだぞ。でも隼八のためなんだからな」
「それ、なんのパーティなの?」
「俺の父の会社のイベントで、各方面からいろんな人が来るんだって。俺も詳しい事はわからないんだけど、こういう催しがある度にいつも父から社会勉強のために参加しろって言われてたのを断ってたんだぜ」
やはり噂通り哲は金持ちの息子だった。
「そんなとこ、僕が行ってもいいの?」
「ああ、父に友達と一緒に行きたいって言ったら喜んでくれたくらいだ。隼八のことは大親友だって、いつも父に言ってるから、一度会いたいって」
「ちょっと、待って。僕のことお父さんに言ってたの?」
「もちろん。俺ってさ、なんか知らないけど金持ちのボンボンとか思われてるだろ。そんなことで意味もなく寄って来る奴がいるんだよ。利用しようとか思う奴 もいたり、あとはライバル意識もったりしてさ、なかなか心許せる友達なんてできないと思ってたわけ。そしたらさ、ぬぼっとして、マイペースな奴がいるじゃ ん。媚びうる訳でもなく、張り合う訳でもなく、自然体で気がついたらいつも側にいるような犬みたいなのが」
「もしかして、それって僕のこと?」
哲は明確に答えないで笑っていた。
「いや、なんていうのか、安心するんだよ。まあ、時々引っ張ってやらないと、あまりにも鈍感すぎるんだけど、それも一緒にいてて楽しいと思えるのも不思議な奴さ」
「褒められてるのか、貶されてるのかわからないよ」
「おっ、自分のことだって思ったな」
哲は笑っているけど、ここは僕が怒るべきなのかもしれない。
だけどそれが全く不快じゃなかった。
僕も一緒になって笑ってしまった。
哲は僕よりも大人で物事をよく見ていた。
だから争い事や問題をさけるようにしながら、最善をつくしていたから、みんなと上手くやっていたんだ。
上辺だけに見えることもあったけど、それが哲のコミュニケーションの高さでもあった。
「パーティ、行く。是非連れて行って」
「おっ、なんだ急にスイッチ入ったみたいだな」
哲のようになれたらどんなにいいだろう。
そこへ行けば、自分も変われるような気になった。