初恋ディストリクト
周りは、みな堂々として話したり、名刺交換をしたり、握手をしたり、大げさに笑ったりして、ビジネスのために行動していた。
学生服を着ている僕たちには無縁な感じがしたけども、哲はその辺りにいた女性に声を掛けた。
「そのドレス素敵ですね。よくお似合いです」
あんな台詞僕には恥ずかしくて絶対に言えない。
「あら、ありがとう」
女性は素直に喜んでいた。
僕は離れてそのやり取りを見ていた。
哲は、次に若いビジネスマンに近づき、ネクタイを褒めた。
「センスがいいですね。それどこで買われたんですか」
見えすぎたお世辞っぽいのに、ビジネスマンは素直に喜んで、得意気にネクタイの事を話していた。
どうやら高いブランド物で自分でも自慢したいところがあったようだ。
哲はきっとあのネクタイのブランドをすでに知っていたのだろう。
会話が終わると、哲は僕の側にやってきた。
「哲、すごいな。物怖じせず話しかけるなんて」
「父が言ってたんだけど、相手のいいところを見つけて褒めるって大切なんだって。普段から練習しとけってさ。そうじゃないと慣れてないと、そういう言葉は出てこないんだ」
「うん、わかる。僕、そんな言葉恥ずかしくていえない」
「だけど、人から褒められると、絶対に悪い気はしないんだ。たとえそれがお世辞であっても、ポジティブな言葉は人にいい影響を与える」
「頭では分かるんだけど、僕は口下手で」
「だから、このパーティで度胸をつけるんだよ。なんのためにここへ連れてきたと思う? 好きな女の子に話しかけられるようになるためだろ」
「でも、だって」
「ほら、『でも』と『だって』なんていってたらいつまでもあの子と話せないぞ」
「だけど」
「『だけど』もだめだ」
哲にアドバイスを貰うのだけど、僕はどうしてもそれを実行できないでいた。
「隼八、恥をかくことを恐れるな。とにかく当たって砕けるんだ」
それが恥ずかしいから出来ないというのに。
そのあとも哲は見本を見せてくれるのだけど、哲の話が弾んでいくと僕は圧倒されてどんどん哲から距離が出来てしまった。
哲の知っている人もいたみたいで挨拶に忙しそうだから、暫く哲と離れてしまった。
ひとりになると心細い。
邪魔にならないように端に寄ろうと後ろ向きに歩いていた時、ドンと何かにぶつかった。
学生服を着ている僕たちには無縁な感じがしたけども、哲はその辺りにいた女性に声を掛けた。
「そのドレス素敵ですね。よくお似合いです」
あんな台詞僕には恥ずかしくて絶対に言えない。
「あら、ありがとう」
女性は素直に喜んでいた。
僕は離れてそのやり取りを見ていた。
哲は、次に若いビジネスマンに近づき、ネクタイを褒めた。
「センスがいいですね。それどこで買われたんですか」
見えすぎたお世辞っぽいのに、ビジネスマンは素直に喜んで、得意気にネクタイの事を話していた。
どうやら高いブランド物で自分でも自慢したいところがあったようだ。
哲はきっとあのネクタイのブランドをすでに知っていたのだろう。
会話が終わると、哲は僕の側にやってきた。
「哲、すごいな。物怖じせず話しかけるなんて」
「父が言ってたんだけど、相手のいいところを見つけて褒めるって大切なんだって。普段から練習しとけってさ。そうじゃないと慣れてないと、そういう言葉は出てこないんだ」
「うん、わかる。僕、そんな言葉恥ずかしくていえない」
「だけど、人から褒められると、絶対に悪い気はしないんだ。たとえそれがお世辞であっても、ポジティブな言葉は人にいい影響を与える」
「頭では分かるんだけど、僕は口下手で」
「だから、このパーティで度胸をつけるんだよ。なんのためにここへ連れてきたと思う? 好きな女の子に話しかけられるようになるためだろ」
「でも、だって」
「ほら、『でも』と『だって』なんていってたらいつまでもあの子と話せないぞ」
「だけど」
「『だけど』もだめだ」
哲にアドバイスを貰うのだけど、僕はどうしてもそれを実行できないでいた。
「隼八、恥をかくことを恐れるな。とにかく当たって砕けるんだ」
それが恥ずかしいから出来ないというのに。
そのあとも哲は見本を見せてくれるのだけど、哲の話が弾んでいくと僕は圧倒されてどんどん哲から距離が出来てしまった。
哲の知っている人もいたみたいで挨拶に忙しそうだから、暫く哲と離れてしまった。
ひとりになると心細い。
邪魔にならないように端に寄ろうと後ろ向きに歩いていた時、ドンと何かにぶつかった。