初恋ディストリクト
 向こう側にも出入り口があり、白く光っていた。

「ねぇ、澤田君」

 私が呼びかけると澤田君が振り返った。

 私は澤田君の顔を見つめる。
 目が合うと相変わらず優しく微笑みを返してくれた。

「どうしたの?」

「それじゃさ、ふと思ったんだけど、あっちも同じように広がってるってことかな」

 今までのところ、この商店街の真ん中から両端へと、店舗を区切りとして徐々に広がっていくのは確かめた。

「じゃあ、確かめてこようか」

 澤田君がもう一方の端へと歩きかけた時、私は止めた。

「別に確かめなくてもいいよ。多分そうなんだよ。それに、広がっていたところで、この空間から抜け出せないんだから、確かめても無駄だよ」

 私はこの絶望的な状況に慣れてしまって、そういうものだと決め付ける。

「わからないよ。もしかしたらそこに新たな発見があるかもしれないし、何事も自分で調べて納得しなくっちゃ。放っておいたら、そこからは進めないんじゃないかな」

「澤田君はポジティブだから」

「僕がポジティブだからという意味じゃないんだ。何もしないことがいやなんだ」

「えっ?」

「何もしなかったら、そこで終わってしまう。それって、変化を望まないってことじゃないか。無理だから、ダメだから、そんな気持ちに邪魔されて、僕はいつも動けなかった。まずは自分のそういう気持ちを変えたいんだ。例え、そこに何もなかったとしても、それを確かめることは決して無駄なことではないと思う」

 言い切った後、私を見てハッとし恥ずかしがっていた。

 それは澤田君の真面目な部分なんだと思う。

 すごいとは思うんだけど、面と向かってどう反応していいかわからないのが私だった。

 投げやりな自分が少し恥ずかしい。

「ご、ごめん。別に栗原さんを責めたわけじゃないんだよ」

「そんなの分かってるって。ただ、圧倒された」

「僕、過去に色んなことで後悔してるから、つい、力入っちゃって」

「わかった。じゃあ、見に行ってみよう」

「でも、何もなかったらごめんね」

「なんで、そこで弱気になってんの」

 芯はしっかりしているのに、最後でなよっとしてしまう澤田君。

 でも向こう側へと、張り切って前を歩き、私はその後をついていく。

 まだ少年であどけない部分が目立つけど、その後姿は精悍(せいかん)だ。

 私は振り返り、先ほどの猫がどうなったか確認する。

 今のところ、その姿は見えずじまいだった。
 そのうちまた出てくるのかもしれない。

 今はそれを信じるしかない。
< 47 / 101 >

この作品をシェア

pagetop