初恋ディストリクト
 そこはアーケードが頭上に長く続く商店街だった。

「おっと、危ないぞ」

 辺りに気を取られていて、商店街に入ったとたん自転車にぶつかりそうになってよたついた。

「すみません」

 慌てて謝ったけど、自転車に乗った人は気にせず走り去った。

 それを目で追って商店街の全体をみていると、桜の造花が間隔をあけて通りの両端にずらっと飾られている。

 桜祭りと書かれた(のぼり)も同じように添えられて、春らしい賑やかな演出がされていた。

 私が踏み入れたところは商店街の中間地点になっていた。

 左右交互に見れば端から端までざっと百メートルくらいの長さがありそうだ。

 感覚で捉えたから、もしかしたらそれ以上かもしれないし、それ以下の長さかもしれない。

 店も所々閉まってシャッターが下りてるのもあるけど、開いている店の方が多かったから賑やかに色んな店が集まっていた。

 そういえば猫はどこにいったのだろう。

 キョロキョロとしていたとき、私の向かい側でも男の子がキョロキョロと辺りを見回していた。

 あっち側にも路地があり、私と同じようにそこから抜け出てきたみたいだ。

 見たところ同い年くらいの高校生だろう。

 気弱そうでなよっとしていたけど、優しそうな雰囲気がする。

 あまり目立たない風貌が私と同じレベルに属する、そんなクラス分けを無意識にしていた。

 あまりじろじろと私が見ていたから、男の子も私の視線に気がついた。

 その後ハッとしたように目を見開いた。

 凝視する男の子の眼差し。

 一度目が合うと、ぎこちなく目を逸らすのもなんだかわざとらしくて、変に意識してしまう。

 モジモジとしながら、目が合ったからという理由で元来た路地を慌てて戻るのもかっこ悪いような、それでいて咄嗟に動けないでいたら、向こうからひょっこひょこと通る人を避けながら近づいて来た。

 それに釘付けになって私はしっかりとその男の子を見てしまった。

 私の近くまで来たとき、口をパクパクしながらも突然ボリュームを上げたように大きな声が聞こえた。

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