初恋ディストリクト
「それじゃ、じゃんけんグリコでもやってみようか」

「ええ、じゃんけんグリコって」

 私が戸惑っていると、澤田君は有無を言わさずすぐに行動する。

「じゃーんけん、ぽん!」

 澤田君の弾む掛け声ががらんどうな商店街いっぱいに元気に響くと、体に刷り込まれた条件反射で私は抗えずそれに合わせてチョキを出していた。

「あっ、僕の勝ちだ。グ、リ、コ」

 澤田君はできるだけ足幅を広げて三歩飛んだ。

「んもう、それで、また向こうの端までじゃんけんグリコしながら行くの?」

「そうだよ。次行くよ、じゃんけーん」

 澤田君の掛け声の後に私も続く。

「ほい!」

 こうなったらやるしかない。
 今度は私が買った。

「パ・イ・ナ・ツ・プ・ル」

 私も負けずに足を大きく広げて弾むように進んだ。

 ふたり同時に「じゃんけんぽん」と勝負する。また私が勝った。

「チ・ヨ・コ・レ・イ・ト」

 澤田君と少し距離が出来てしまう。

「次は、負けないぞ。じゃんけんぽーん」

 どっちも同じパーだ。
 同時に「あいこでしょ」。

 また私が勝った。

「パ・イ・ナ・ツ・プ・ル」

 澤田君とどんどん離れると不安になってくる。

「澤田君、まじめにやってよ」

「僕はまじめにやってるよ。それじゃいくよ。じゃんけんぽん」

 やっと澤田君が買った。

「グ・リ・コ」

 それじゃ追いつかないじゃないの。
 
しばらくじゃんけんグリコで遊んでいたけど、商店街の半分まで来るのに結構な時間がかかってしまった。

「澤田君、ちょっと休憩しよう」

 まだ私に追いつけない遠く離れた澤田君に叫んだ。

「オッケー」

 返事をすると、澤田君は私の居る方向へとゆっくりと歩いてきた。

「澤田君、じゃんけん弱いね」

「栗原さんが強いんじゃないの」

 結局楽しんだというよりも、時間つぶしになってしまい、ちょっとこれは体力を消耗してしまった。

 こんな事をして解決策に近づいた気になれなかった。
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