初恋ディストリクト
「さ、澤田君」
思わず澤田君の側に寄って無意識に彼の腕に自分の腕を絡めていた。
「だ、大丈夫だよ。揺れはそんなに強くないし」
「でも徐々に大きくなってるような気がする。どうしよう、澤田君」
さすがに地震が頻繁に起きると、不安になってしまう。
澤田君も一生懸命笑おうとするけど、顔が強張っていた。
「大丈夫だよ。大丈夫。この空間では物は落ちてこない。揺れても危険なものはないってことだよ。ちょっと落ち着こう」
私たちは密着し、辺りを見回す。
その時は何も変わった事がないと思っていた。
「あっ」
また私が声を上げた。
「猫が足元にいたの?」
澤田君が確認するために腰を曲げようとした。
「動かないで澤田君。今猫は私の足をすりすりしている」
「あっ、なんか聞こえる。ゴロゴロって猫が喉を鳴らす音」
耳を澄ますと、低音でそれでいて小刻みに響く猫の喉を鳴らす音が聞こえてきた。
「本当にいるんだ、猫」
私たちは顔を合わせた。
「でも、その姿が見えない」と澤田君。
「だけど、猫からは私たちが見えるんだよ」
「あっ、もしかしたら」
澤田君ははっと閃いて、必死に考えをまとめようとしていた。その隣で私は固唾を飲んだ。
「これも仮説なんだけど、さっきから揺れてるのは、この猫と関係があるんじゃないだろうか」
「どういうこと?」
「猫は僕たちが見えてじゃれている。でも僕たちからは見えない。そのお互いが居るところの時空のズレが今、重なろうとしてこの空間が揺れてるんじゃないだろうか」
「あっ、なるほど。じゃあ、揺れが大きくなっているのは、もう少しで重なり合うってことなの?」
「かもしれない」
「じゃあ、この揺れは、元の世界に戻るために起こってるってことなんだ」
私たちの顔がぱっと明るくなる。
元に戻れる。それが近づいてきている。
「澤田君、やったね」
急に力が抜けて、目が潤みだした。
「栗原さん、今猫はどうしている」
先ほどまですりすりされていたけども、今は何も感じない。あまりにも喜びすぎて無意識で猫を蹴ったかもしれない。
「あっ、どこかに行ったみたい。どうしよう」
「大丈夫。きっとまだ近くにいるよ」
そこで、また揺れが始まった。私は咄嗟に澤田君の腕を掴んだ。
「どんどん大きくなってる」
「これは猫のせいだよ。元の世界に戻れるチャンスなんだよ」
私たちはいいように捉えようと必死だった。
「ここを出たら、澤田君と桜ヶ丘公園でお弁当もってデートする」
「そしてケーキを一緒に食べる」
何かの呪文のように私たちは言い合った。
澤田君は猫に触れようと腰を折って地面に手を向ける。
私はその姿をくすっと見ながら見ていたけど、急に我に返ってすっと笑顔が消えた。
澤田君の初恋の人は事故で亡くなってしまった。
澤田君はその事故をなかったことにして、その初恋の人が生きていると思い込んでいる。
でも私はその初恋の人じゃないし、この場合、澤田君にとったら私の存在はどうなるのだろう。
そう考えたら、私は初恋の人に似ている事を利用して、澤田君の弱みに付け込んで入り込もうとしているんじゃないだろうか。
最初はそれがすごい強みに思えたけど、事故の事を知ると納得しづらいものが出てくる。
「澤田君、まだその初恋の人のこと好き?」
私の質問に澤田君は猫を探す動きを止めた。
ゆっくりと立ち上がり私に振り向いた。
「えっと、そうだね。好き……」
澤田君がそこまで言うと、私の心が少しずきっとした。
思わず澤田君の側に寄って無意識に彼の腕に自分の腕を絡めていた。
「だ、大丈夫だよ。揺れはそんなに強くないし」
「でも徐々に大きくなってるような気がする。どうしよう、澤田君」
さすがに地震が頻繁に起きると、不安になってしまう。
澤田君も一生懸命笑おうとするけど、顔が強張っていた。
「大丈夫だよ。大丈夫。この空間では物は落ちてこない。揺れても危険なものはないってことだよ。ちょっと落ち着こう」
私たちは密着し、辺りを見回す。
その時は何も変わった事がないと思っていた。
「あっ」
また私が声を上げた。
「猫が足元にいたの?」
澤田君が確認するために腰を曲げようとした。
「動かないで澤田君。今猫は私の足をすりすりしている」
「あっ、なんか聞こえる。ゴロゴロって猫が喉を鳴らす音」
耳を澄ますと、低音でそれでいて小刻みに響く猫の喉を鳴らす音が聞こえてきた。
「本当にいるんだ、猫」
私たちは顔を合わせた。
「でも、その姿が見えない」と澤田君。
「だけど、猫からは私たちが見えるんだよ」
「あっ、もしかしたら」
澤田君ははっと閃いて、必死に考えをまとめようとしていた。その隣で私は固唾を飲んだ。
「これも仮説なんだけど、さっきから揺れてるのは、この猫と関係があるんじゃないだろうか」
「どういうこと?」
「猫は僕たちが見えてじゃれている。でも僕たちからは見えない。そのお互いが居るところの時空のズレが今、重なろうとしてこの空間が揺れてるんじゃないだろうか」
「あっ、なるほど。じゃあ、揺れが大きくなっているのは、もう少しで重なり合うってことなの?」
「かもしれない」
「じゃあ、この揺れは、元の世界に戻るために起こってるってことなんだ」
私たちの顔がぱっと明るくなる。
元に戻れる。それが近づいてきている。
「澤田君、やったね」
急に力が抜けて、目が潤みだした。
「栗原さん、今猫はどうしている」
先ほどまですりすりされていたけども、今は何も感じない。あまりにも喜びすぎて無意識で猫を蹴ったかもしれない。
「あっ、どこかに行ったみたい。どうしよう」
「大丈夫。きっとまだ近くにいるよ」
そこで、また揺れが始まった。私は咄嗟に澤田君の腕を掴んだ。
「どんどん大きくなってる」
「これは猫のせいだよ。元の世界に戻れるチャンスなんだよ」
私たちはいいように捉えようと必死だった。
「ここを出たら、澤田君と桜ヶ丘公園でお弁当もってデートする」
「そしてケーキを一緒に食べる」
何かの呪文のように私たちは言い合った。
澤田君は猫に触れようと腰を折って地面に手を向ける。
私はその姿をくすっと見ながら見ていたけど、急に我に返ってすっと笑顔が消えた。
澤田君の初恋の人は事故で亡くなってしまった。
澤田君はその事故をなかったことにして、その初恋の人が生きていると思い込んでいる。
でも私はその初恋の人じゃないし、この場合、澤田君にとったら私の存在はどうなるのだろう。
そう考えたら、私は初恋の人に似ている事を利用して、澤田君の弱みに付け込んで入り込もうとしているんじゃないだろうか。
最初はそれがすごい強みに思えたけど、事故の事を知ると納得しづらいものが出てくる。
「澤田君、まだその初恋の人のこと好き?」
私の質問に澤田君は猫を探す動きを止めた。
ゆっくりと立ち上がり私に振り向いた。
「えっと、そうだね。好き……」
澤田君がそこまで言うと、私の心が少しずきっとした。